遭遇 6 【百side】 ページ43
『…………』
Aの表情は動かない。
瞳だけが揺れていた。
顔を上げて八乙女を見る。
八乙女はAから目を離さない。
言ってみただけとか冗談とかじゃなくて、真剣だった。
「君には誰にも代えられないような才能がある。…私はそう思っている。
柊雨が君の望んでいない過去だったとしても、君自身の能力は本物だ。君の力は君自身のものだ。」
…驚いた。
この人、こんなこと言うんだ。
Aを見る。
まだ、瞳は揺れたまま。
…オレは、どうするのが正しいんだろう。
八乙女を無視してAを引っ張ってここから去ることは出来なかった。
八乙女は…この人は、ちゃんと今のAを見ている。
そう思えた。
八乙女が再びオレを見た。
「黒瀬プロダクションに柊雨の名はもう無い。だが、黒瀬は柊雨を探し始めている。…表立ってはいないが、おそらくもう一度自分の手元に戻そうとしているのだろう。…時間が無い。」
「…だから今のうちに自分の所に連れ込もうって?」
オレの言葉に八乙女は顔をしかめる。
でも事実じゃん。
「…聞こえの悪い言い方をするな。
だが、このままではいずれ黒瀬の手の中で踊らされるだけだ。…違うか?」
「…………」
焦っているんだ。
他事務所に取られてしまっては引き抜くのはかなり厳しくなる。
内情のよく分からない黒瀬ならなおさら。
黒瀬は今度こそどんな手を使ってでもAを取られないようにするだろう。
…オレも、そうだったし。
それにしても、黒瀬が動いてる?
そんな情報、オレの耳には入っていない。
裏の事情が分かるまでオレも人間関係が入り込めてないからしょうがないかもだけど。
でも、本当なら相当マズい。
早くAを守れる場所を決めなければいけないのは明白だ。
「少し、時間をください。」
八乙女社長の目を真っ直ぐ見る。
眼鏡のレンズ越しに鋭い瞳がオレを見ている。
今答えを出すわけにはいかない。
オレが今ここで決めていいことじゃない。
Aはまだ答えを出せていない。
情報と考えを整理する時間がいる。
「…いいだろう。だが、時間が無いことは覚えておけ。」
頷く八乙女社長に少し胸を撫で下ろす。
…態度はアレだけど、ちゃんと話の通じる人で良かった。
八乙女社長がスーツの胸ポケットから名刺を取り出してペンで何か書いている。
受け取って見てみると事務所の場所、電話番号のほかに名刺の裏に携帯番号が殴り書きされていた。
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欅夏希 - とっても面白いです!感情の変化や状況などが分かりやすく、読みやすいなぁと個人的には思っています!お話を作るのは簡単ではないかもしれませんが、続きを読めるのを楽しみに待たせて頂きます。無理なさらず、頑張って下さい。 (2020年3月27日 22時) (レス) id: 94cd216a66 (このIDを非表示/違反報告)
柚木夏紗 - 面白いっ!!!!更新待ってます!!! (2020年3月18日 7時) (レス) id: 73f9f96d98 (このIDを非表示/違反報告)
聖(プロフ) - はじめまして いつも更新を楽しみにしています。 これからも頑張ってください^_^ (2020年3月14日 12時) (レス) id: d507af1541 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:テル | 作成日時:2020年3月3日 13時