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「下の名前で呼んでいいと言った覚えはないんだけど。しかも君、本当に白石花澄?」

 花澄はハッとした。つい前世の影響で紫恩を「紫恩」と呼んでしまった。
 あの頃は漫画のキャラクター名を下の名前で呼んでいた。しかし、大抵の親しくない高校生の男女間は苗字で呼び合う。

「あ、ごめんね。名簿見てたら下の名前が印象的だったから。私は本物だよ。証拠が欲しい?」

「いや、興味ない。それと、馴れ馴れしく下の名前で呼ばないで」

「しょうがないから藤枝くんって呼んであげよう。それよりさ、今日の授業のプリント持ってきたよ」

「……何が目的?」

 紫恩は目を細めて尋ねた。声は氷柱(つらら)のような鋭さを含んでいる。細められた目は聞く前から花澄が対価を欲しがっていると決めつけている。
 そんな表情で瞬きせずに彼女を見つめた。

 花澄は考えながら答える。

「うーん、そうだね、いい問題集を教えてほしい。再来週に中間テストがあるから」

「俺、勉強は教えないよ。教えてほしいなら自分で家庭教師でもつければ」

 なんなんだこの生意気小僧は。
 花澄はそう言いたくなる気持ちを抑える。そしてこの生意気なボクちゃんに比べれば自分のコミュニケーション能力も捨てたものじゃないと安堵してみる。
 そう思うと、根拠のない自信が湧いてきた。

「教えてほしいのは、勉強そのものじゃなくて、うちの高校に合った問題集だよ。それさえ教えてくれれば、あとは自分でやるから」

「ふーん、変なの」

 あまりの酷さに花澄は無言になる。勉強は教えないと言っておきながら違う答えを言うと変だとは。これが見下すというやつか。

 紫恩はそんな花澄の様子に目もくれることなく、マイペースに話を進めていく。

「それだけなら、教えてあげてもいい。玄関まで来て」

 あっさりと承諾し、彼は門を開けて花澄を敷地内へ促した。開け放されたドアの前で紫恩を待つ。

「あら、紫恩の友達?」

 背後から声をかけられ花澄は振り返る。上品そうな四十代くらいの女性――紫恩の母親がぽっかり開いた口をレースの手袋に包まれた手で隠していた。

 花澄は慌てて営業スマイルを貼り付ける。

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設定タグ:コメディ , 転生 , 市販書き(一次創作)   
作品ジャンル:その他, オリジナル作品
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紅月まのか - もしかしてツンデレですかね.......?(え)更新日昨日か.......あと1週間待ってます!頑張ってください! (2019年7月21日 7時) (レス) id: b975388040 (このIDを非表示/違反報告)
花杜あみり(星沢想良)(プロフ) - Couteau_1937さん» 直しました! ありがとうございます! (2019年6月29日 9時) (レス) id: bb468dc0cb (このIDを非表示/違反報告)
Couteau_1937 - 細かくてごめんなさい!!「復讐」が「復習」になってます! (2019年6月23日 21時) (レス) id: deb1b5318f (このIDを非表示/違反報告)
ひよ - オリジナルの中で一番好きです!楽しすぎて久また読み返ししてました笑笑更新頑張って下さい! (2019年6月23日 0時) (レス) id: 85d98be7fd (このIDを非表示/違反報告)
りゆ - とても面白くて、楽しみだったので、更新、戻って来てくれると嬉しいです!(>_<) (2019年6月2日 15時) (レス) id: ebc25fbea8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:花杜あみり(星沢 想良) | 作者ホームページ:   
作成日時:2018年12月25日 16時

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