突然娘が誘拐された【中原中也】

１ ページ2

「こら杏奈！ピーマン残したらダメって言ってるでしょ！？」





「ピーマンいれるのがおかしいもん！」






ちゃっかりと中也の膝の上でご飯を食べているのは最近4歳になった娘の杏奈。
見た目は中也に似て可愛らしいというのに…性格だけ私に似てしまったようだ。






「杏奈はピーマン嫌いなのか？」





「ママの必死さが嫌！」





中也が顔を覗き込んで聞けば、どこかの金髪少女と同じ事を言い出した。
中也もそれには驚いたようで苦笑いである。





それにしても気に食わない。






「杏奈、パパはママのよ！」






大人気ない？



なんとでも言いなさい。
杏奈よりも私の方がずっと中也といるもん。





「中也は私と杏奈、どっちが好きなの！？」





台所から出て正面の椅子に座る。
これは前から気になっていた事だった。
杏奈とばかり楽しそうにしてて…私だけ仲間外れみたいじゃん。





「ヤキモチやいてるんだね！パパは杏奈のだもん！」






中也の膝の上でドヤっとする杏奈。
まさに私そっくり。

そこがイラってくる




「パパはどっちも好きだぞ。杏奈は可愛いもンな」






なっ…！





娘に負けたという敗北感。
そうですか。何年も一緒にいる私より娘ですか。
いいもんね。私だって太宰さんとか国木田さんとかに「イケメンだね！」って言ってやるんだから！



がっくりと肩を落として台所に戻った。






「私だって……ずっと中也好きだもん！」






リビングには聞こえぬ声で呟き、皿洗いを再開した。







＿＿＿刹那、後ろから何かが覆い被さり前のめりになる。



ふわりと香った香りは数年前と変わらぬ愛しい匂い。




この感じ……初めて出会った日を思い出す。








「ばーか。Aが1番に決まってるだろ？」






人を小馬鹿にするような声が耳元で囁かれ、恥ずかしさで動かしていた手が止まってしまった。




言わずとも中也だ。






手が止まっているのを確認した中也がさらに追い打ちをかける。








「愛してるぜ」





「〜〜っ不意打ち禁止！！酒も禁止にするよ！？」






ほんと昔から中也は変わってない。
半分脅しにかかるとすんなりと退いてくれた。

だけどすぐ近くで壁に寄りかかってる。
早く行ってもらわないと心臓もたないんですが……







「A不足。”また後でな”」







…………あんのばかっ！！！





にやりと笑った中也の顔と声が何度もリピートされる。





「ふざけんな！」





洗剤を勢いよく出して恥ずかしさと格闘したのだった。

２→←設定

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す