転生先が乙女ゲームみたいなんだが 2【鬼滅の刃】

第漆拾参話 ページ25

「…嘴平くん」




ガラッと戸が開いて、伊之助がズカズカと部屋に入ってくる。
……いつも思う、皆さんノックをしましょう。
そして返事を待ちましょまう。




「どうしたの…って、化粧落とされたんだ」
「あ？俺の顔に文句でもあんのか!?」
「…ありませんとも」




やっぱり伊之助は美人だ。
男に使うのはどうかとも思うが、美しいんだもの、仕方がない。




「で？どうしたの？」
「着替えて来いって」




ん、と伊之助は持っていた着物を突き出す。
私も着替えろと言われ、同じ着物を先ほど渡されたばかりだ。

……まー、伊之助が男だって知らないわけだし、同じ人に売られてきたわけだから同じ部屋を使えってのも頷けるか。……でもね、

流石に伊之助の前じゃ着替えられないって。




「着方は？わかるの？」
「…知らねぇ」




……ですよねー。
伊之助にとっては服を着るのでさえ拷問だもんね。
しかも女物の服の着方なんてそりゃ知らないわ。




「……はぁ、貸して」
「あ？」
「だから、貸して」




伊之助から着物を奪い取って広げる。
さすが遊郭、上等な服だこと。




「とりあえずこれ羽織って」
「何で」
「何でも」




早くしないと人が来ちゃう。
それまでに伊之助だけは着替え終わらせないと……男だってバレちゃう。




「……。」
「おい」




伊之助の前に膝をついて帯を巻いていると、伊之助の声がして見上げる形で目を合わせる。

うわっ、やっぱ美形。




「何だこれ」
「何って…帯」
「どうやんだ」




どうやら帯に興味を持ったようで、帯の結び方を聞いてくる。
なんかもう、興味が幼稚園児のそれ。

と思いつつも丁寧に教えてやる私は優しいと思う。




「はい、できた」
「……俺がもう一回やる！」
「え、ちょ！せっかく巻いたのに!!!」




綺麗に巻けた帯を解こうとする伊之助を必死に止める。せっかく巻いたのに！時間ないんだって！




「じゃあ、おまえのをやる。よこせ」
「…は？」




すると、伊之助は私の荷物の中から帯をふんだくる。そしてビッ、と帯を伸ばした。

初めて知ったことを試してみたいのか、めっちゃ目がキラキラしてるし。
……やっぱ、幼稚園児みたい。




「……わかった、じゃあよろしく」




諦めてしぶしぶ伊之助の前に立つと、伊之助はさっき私がして見せたように帯を巻いていく。

巻き直し覚悟。
伊之助の着替えは終わったし、もういいや。
なんて考えていたけど………




「出来たぞ！」
「……おぉ、」




出来上がったものは想定していたよりもずっと綺麗で……思わず笑みが溢れた。

第漆拾肆話→←第漆拾弐話

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す