＃40 ページ44
「…………戻れた…」
巨人に行く手を阻まれることなく前衛の班は壁内へと滑り込み、すぐに後ろ振り返った。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿嘘だ。
荷馬車班が入ったところまでは見えた。
でも、後列にいた数班が未だ戻ってきていない…。
なのに、どうして門が下がり始めている?
「エルヴィン!」
「…ジゼル。お前たちが戻ってこれてよかった」
「どうして、門が…まだ数班戻ってきていないだろう」
「1つは戦死した。もう1班はうまくいけば今から壁を上る」
「……そうか」
こういう時、私はいつも思う。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿誰を責めたらいい?
答えはわかりきっている。巨人だ。巨人のせいなんだ。
それでも、人が死ぬことに慣れはしないし、いつだって心が締め付けられる。
***
壁外遠征から帰って数日後、とうとう仲間は帰ってはこなかった。
しかも、慢性化していた食料不足で、マリアの人間をローゼ内に留めることが難しくなり、ついに、巨人討伐作戦と称してマリアの人間の大多数を投入した。
そして、皮肉にも、ローゼの食糧難は緩和した。
「リヴァイ兵長、まだ終わりませんか」
「うるせぇ。だったらお前がやれ」
「それは無理なご相談です」
「だったら黙って」
「そうもいきません。ただでさえ期限を延ばしてもらってこの状態ですので」
「チッ」
「だったら黙っていろ」というつもりだったのだろう。言葉を遮って言う私に、兵長がいい顔をするわけがなかった。
実のところ、兵長が今やっている仕事は明後日までに出せばいい。
だが、それ以外、期限が迫っている書類はほとんど全部私が片づけたのだ。
それでも期限が迫っている書類があるのだから、兵長自身がやらなければならない仕事くらい早々に片づけてもらいたかった。
「……ハァ。カリカリしていても効率が落ちますね。
少し、休憩にしましょうか。紅茶、お淹れしますよ。」
「そうだな。だがいい。今日は俺が紅茶を淹れてやろう。
お前は座って待っていろ」
私の淹れ方に何か問題でもあったのだろうかと少し不安になったが、仕事に根を詰めていた息抜きがしたいのだろうと早々に合点がいった。
だとしても、兵長が紅茶を淹れてくれるなんて、初めての事だ。
茶葉の入った缶の蓋を開けるしなやかで長いきれいな指。
私がその姿に見惚れているのだと自分自身が気づくのはまだ先の話。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿846年編・完＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
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作者名：clear | 作成日時：2017年5月5日 21時
