176話 不二周助の欲心7 ページ40
答えを待つように裕太を見る。裕太は背もたれに頬杖をつき、僕に背を向けながらもぶっきらぼうに言った。
裕「そりゃまあ、好きならそうなるんじゃないか? 兄貴だって男だし」
不「やっぱりそうだよね」
裕太の答えに僅かに緊張が解ける。先程よりも気持ちが軽くなり、続けて質問した。
不「Aって、そういうのわかってると思う?」
そう聞くと、裕太の視線が鋭く飛んでくる。
裕「俺より兄貴の方がAのこと知ってるだろ」
不「でも、Aの気持ちがよく分かってるのは、やっぱり裕太だと思うから」
裕「いや、俺あいつとそんな話しねえし、わかんねえよ」
裕太が居住まいを正して、背もたれに背を預ける。
裕「そんなの本人に聞けよ」
裕太の言葉に、僕は心持ち視線を逸らした。
不「そう……だね」
僕はこんなに臆病だっただろうか。気持ちを伝えること、相手からどう思われるか、落胆されるのが怖い。そう思うと、返答の声もトーンが下がる。
裕太はそれに目ざとく気づき、またキッと僕を睨みつけた。
裕「おい」
さっきまで気恥しそうに照れていたのに、別人かと思うほどの低い声。
裕「Aは真剣に聞いた事、はぐらかすようなやつじゃねえだろ」
怒りというより、誠意すら感じる言葉。
僕の知らないAとの関係が、きっと裕太にもあるのだ。
裕「そんなん兄貴もよく知ってるだろ」
そして、確かめるような、問いかけるような声音で、裕太は僕を見た。
不「……うん、そうだよね」
僕もその誠意に、答えなければいけないんだろう。いや応えたい。
やっぱり、裕太は凄いや。
238人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:葉奈 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hana1/
作成日時:2022年8月26日 17時