数学サタデイ【スピンオフ】～Winter’s Tale～ (ページ8)

今日:5 hit、昨日:0 hit、合計:7,478 hit

掛け算ページ8

「自分で呼び出しておいて遅刻ですか。」

キムジュンミョンが嫌味を込めて言う。

「悪い、でもしょうがないだろ。仕事で遅れたんただから。」

ルゥハンは悪びれずに答えた。

駅から少し離れたところにひっそりと佇むバル。
男だけで来るにはちょっと洒落っ気がありすぎる気もするが、なんだかんだ馴染んでしまうのがこの2人である。

「Aの中間テスト結果なんだけど、まぁまぁだったんだよな。平均ちょい下くらい。あいつにしては最高点だよ。」

ありがとな、とルゥハンがキムジュンミョンの肩に手をかける。
アルコールを摂取すると気さく度がいくらか上がるようだ。

「いえ、僕としてもありがたい。あそこまで出来ない子を教える機会はあまりないので。勉強になります。」

キムジュンミョンは大学院に通う傍ら、進学塾講師のシフトを持っている。
なかなかハイレベルな教え子に囲まれているらしかった。

「しかし、先輩はどうしてそこまでAさんに手を焼くんです？」

「そりゃ自分の生徒を落第させたくないからに決まってんだろ。」

そう言うと、ルゥハンはグラスをぐいっと飲み干した。
キムジュンミョンはルゥハンをかっこいいと思った。
(グラスの中身は可愛らしいカルーアミルクであったのだが。)

「そうでしたか、ただ単にお気に入りの子なのかと思っていましたよ。」

「人聞き悪いこと言うなよ、そんなんじゃ担任教師なんて無理だろ。」

「おそらく彼女は先輩のことを特別に思っているようですよ。」

「おぉ、それは嬉しい。だんだん心開いてくれたかなと思ってたんだ。」

「僕といるときも何かとルゥハン先生はああだ、こうだ、そんなことばかり話します。」

「ふぅーん。で、ジュンミョン先生はそれの何がご不満なんでしょうか。」

ルゥハンはふざけたように頬杖をつき、キムジュンミョンの瞳をじっと見つめた。

「あっはは、どうして僕が不満ということになるんですか～」

対してキムジュンミョンは目を糸のようにして胡散臭く笑って見せる。

「、、、お前って可愛いな？」

ルゥハンはキムジュンミョンの髪を掴んで顔を近づけた。

「嫌だな、先輩。こんなに少量で随分と酔うんですね。」

「別にお前の勝手だけど、Aが卒業するまでは絶対手出しさせないからな。」

「あはは、このお兄さんは何を言ってるんだか。」

指導をする側の人間でも、雑談の席では学生のそれといくらも変わらなかった。