数学サタデイ【スピンオフ】～Winter’s Tale～ (ページ6)

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みんなが厚着をしているせいでより窮屈に感じる電車内。
窓のガラスは外との温度差で曇っている。

高校生の下校時刻とサラリーマンの退勤時の被るこの時間帯の電車で、私たちは一度も座れた試しがない。

今日もいつものように、つり革に手首をかけるパクチャニョルと向かい合わせの形でドアに背中を預けていた。

「はー外寒すぎて凍る」

それもそのはず。
ブレザーの下にパーカーというだけの貧弱な防寒対策でこの国の冬を快適に過ごせるわけがない。

「コート着ればいいのに。私はあったかいもんね。」

私は自分のダッフルコートを撫でて見せた。

「俺コートは着ないって決めてんの、1年の時から。イケメンパクチャニョルにはパーカーが一番お似合いってわけ。」

「あほらしすぎて言葉も出ないわね。」

呆れて彼に背を向けると、外の変化に気づく。

「ねぇ、見て、雪、初雪じゃない？」

私は手のひらをぴったりドアにくっつけて雪の降るのを見る。

「あ！本当だ！すげー。、、、写真撮ろ。」

後ろを振り返ると、ドアに手をつきスマホを構えるパクチャニョルとの距離の近さにちょっとだけびっくりした。

見上げる私と、ん？という風に首をかしげる彼の視線がぶつかる。

ただそれだけなのに、私は青春映画のワンシーンに飛び込んでしまったみたいな心地がした。

この男の器量の良さは卑怯だと思った。

近くにいるだけでたまにぼーっとしてしまう。

「あっぶな！せーふ」

、、、電車が駅に到着し、ドアが開くことにも気を止められないくらい。

ドアに体重をかけていた私、ドアが開けば身体ごと電車の外へ投げ出されるはず。

それがふしぎ、わずかにバランスを崩しただけで済んでいる。

なんの違和感もない。
パクチャニョルの腕が私を抱きとめていること以外には。

「Aちゃん大丈夫？」

低い声が耳元にダイレクトに響く。
目線を下に向ければ右肩の方から彼の片腕が回されている。

「ごめん、あ、ありがとう」

離して、と彼の腕を叩く。

「いや無理動けない」

非常にコンパクトにまとまってしまった高校生2人。
夕方の満員電車、空いたスペースには容赦なく人が詰まっていく。

「まぁさ、たまには俺にドキドキしてみなって。」

「耳元で話さないでよくすぐったい」

後ろから抱きとめられているおかげで、お互い顔を見ずに済んだことが不幸中の幸いである。
私の頬はきっとゆでダコみたいに真っ赤だ。