* ページ29
.
再びガラス越しになった太輔。
繋がれたたくさんの管と酸素マスクで、太輔の顔がよく見えないのが嫌だった。
「太輔…、」
そっと名前を呼べば、聞こえないそれに反応するかのようにこちらを見る太輔。
私に向かって弱々しく伸ばされる手は、行き場を無くして空を彷徨った。
「…Aちゃん、ちょっといい?」
太輔の容体は相変わらずで、それに伴い私の笑顔も日に日に消えていた。
あの時私を呼び止めた太輔のお母さんは、きっと私より辛かったはずなんだ。
「……太輔のこと、なんだけど…」
俯いて、必死で涙を堪えてるのがわかった。
「…太輔ね、白血病が転化したみたいで…、今までで使ってた抗がん剤が効かなくなっちゃったみたいで…、」
その先の言葉が聞きたく無くて視線を逸らす。
けれどお母さんは、辞めることなく話を続けたんだ。
「…太輔ね…、持ってあと三ヶ月なんだって…」
……三……、カ月……
身体中に電気が走ったようだった。
ありえない…、そんな…
あと三ヶ月しか生きれないの?
太輔が……?
「…それでね、…もう、辛い治療は無しにしよう、って。…あの子の命が尽きる瞬間まで、あの子の好きなようにさせてやろう、って…」
呆然と立ち竦む私にそう言いながら。
涙で真っ赤に潤んだ目で、真っ直ぐに私を見つめてこう言ったんだ。
「…だから、太輔のこと……よろしくお願いしますっ…」
深々と頭を下げたお母さんの足元には、ポタポタと涙が落ちていた。
.
.
1003人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
yokonana(nanaco)(プロフ) - 今まで読んだ中で1番好きになりました。素敵なお話をありがとうございます(TT)電車で読まずに家で読んで正解でした、大号泣で目真っ赤です(;ω;) (2019年4月7日 22時) (レス) id: da866a5801 (このIDを非表示/違反報告)
みゆ(プロフ) - 久しぶりにこのお話が読みたくて占ツク開きました。もう何回読んだかわからないくらいこのお話を読んでて何度読んでも大号泣します。とてもステキなお話ありがとうございます (2019年1月5日 4時) (レス) id: e8b45e2616 (このIDを非表示/違反報告)
れーこ ♪(プロフ) - こんなに死を美しく、かつ、生きてるすばらしさを描く作品に出会えたこと、すごく嬉しいです。ララちゃんの虫除けスプレーとか、面白い要素もありつつ、涙なしでは見られないところもあって。これからも頑張ってください!ステキなお話をありがとう!! (2018年2月18日 0時) (レス) id: b4f001e027 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうな(プロフ) - はじめまして!最後まで読ませていただきました。病み系割と好きなのですがこれはダントツで好きです!ほんとにほんとに涙が止まらなくて次の日目が腫れそうです(笑)こんな素敵な作品を書いてくださり本当にありがとうございました!他の作品も読ませてもらいますね! (2017年4月27日 2時) (レス) id: ae8d783771 (このIDを非表示/違反報告)
Mimiko(プロフ) - とても泣けました!これからも頑張ってください! (2016年12月10日 22時) (レス) id: 68caafdc07 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:K | 作成日時:2015年5月6日 20時