失楽園【波羅夷空却】 (ページ1)

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「ったくゥ、なんで拙僧がこんな面倒なこと…ッ」

急な坂道を上る脚元は気怠い。ぎゅ、と一歩一歩を踏みしめながら、背中の荷物を抱え直す。

空却が今向かっているのは、空却のいる寺から二時間ほど歩いた僻地にある村だ。そこには俗世間から隔離されたような小さな集落があり、昔から伝わる伝統を守り続けながら細々と生活しているのだという。しかし、それにしても。

「…今どき、巫女を捧げるなんて習慣があんのかよ…」

そう。その集落には、十年に一度、若い娘を一定期間ほど隔離して神に捧げる、という習わしがあるのだという。昔は三ヶ月ほどだったらしいが、現在ではおよそ一ヶ月ほど。そしてその生活の補助を住み込みで空却の寺の僧侶がするのが、伝統なのだ。

荒い息を整えながら、眼前の木々を睨みつける。昔やった荒行に比べたらはるかにましだが、それでもいい運動だ。

辿り着いた山小屋はこぢんまりとしていて、古びてはいたが定期的に手入れがされているようだった。何も知らない人が見たら心霊スポットか何かだと思うだろう。一応生活に必要な施設はひととおり揃っているらしい。空却たち僧侶が助けるのはあくまで食糧など物資の配達が主だ。

扉を開け放って、声を張る。

「よーォ、邪魔するぜ。拙僧が、今日からお前の世話係をやる波羅夷空却だ。…って、あ？」

コンロと思しき道具の前に立っていた華奢な女が振り向く。その顔には薄い垂れ幕のような布がかかっていた。

「見えてんのか？それ」と言いながら、ぺら、と軽い手つきでその布をめくる。

瞬間、言葉を失う。