検索窓
今日:6 hit、昨日:8 hit、合計:116,297 hit

出立まではあと ページ35









「 すみません福良さん、俺Aちゃん連れて病院行ってきます 」
「 えっ?! 」







 このまま小さい事件で終われば。
 そんなことなかれ主義の私を許さないのは、いつだって伊沢さんだ。彼の大きな手が打撲の無い方の手首を掴み、福良さんにそう宣言する。

 この人には全部バレてる。
 本当は泣きたいほど痛いことも、本当は全然大丈夫じゃないことも。

 ……彼には全部筒抜けだった。








「 Aちゃん、行くよ 」
「 でも、伊沢さんまだ仕事残って…… 」
「 大丈夫、伊沢の仕事は俺がやっとくから。しずくちゃんはちゃんと専門家の人に診てもらってきて 」








 福良さんの言葉に背中を押され、伊沢さんの背中を追うように会場を出る。その間、あんなにも騒がしい伊沢さんが喋り出すことはなかった。
 なんだか、少し怒ってる……?

 彼の愛用車に乗せられ、気まずい空気のまま、助手席で小さくなる。
 なんだろう、この重たい空気。やっぱり迷惑かけただろうか。こんな大変なときに怪我するなんて!みたいな。








「 ねぇ、Aちゃん 」
「 ……はい 」







 やっと声をかけられたのは、車が赤信号に引っ掛かったタイミングだった。
 彼の視線がこちらを向くことはなく、ずっと横断歩道を横切る人々に送られている。








「 俺さ、今怒ってんだけど 」
「 あぁ、はい。ですね 」
「 なんでか分かる? 」
「 ……迷惑、かけたから? 」
「 不正解 」







 横からでも分かるほど彼の顔はムスッとしてる。
 本気で怒っている訳ではなさそうだけど、度合いがどうであれ、怒っていることは確かなよう。

 悩んで首を捻る私を見かねた彼が、重たいため息を一つこぼした。呆れたような、安堵したような。さっきまで怒ってたのに、変な人。








「 俺は、Aちゃんが怪我を隠そうとしたことに怒ってんの 」








 今度は、真っ直ぐと伊沢さんの視線が私を貫く。
 一瞬、その瞳が纏う真剣な雰囲気に、私は呼吸の仕方を見失ってしまった。

 ―――「でも伊沢なら良いんだろ?」そういう河村さんの言葉を思い出す。
 いつもふざけてて、うるさくて、強引で、バーゲンセールみたいな告白をして。なのに、他の誰よりも、私を見てくれてる。
 でも結局、そんなとこが、全然、憎めなくて。









「 Aちゃん聞いてる?俺は怒ってんの!すっごく! 」








 あぁもしかして私は、ずっと前から、彼を。

 ―――イベントまで、あと二週間。








雲散霧消の兆候→←大事件クラッシャー



目次へ作品を作る
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (185 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
481人がお気に入り
設定タグ:QK , QuizKnock , izw
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:朝田 | 作成日時:2021年1月6日 19時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。