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両者引き分け ページ30










「 河村さん最近あんまりカフェの方来ませんよね 」
「 まぁね。これ以上恋路の邪魔するとそろそろ伊沢が藁人形作り出しそうだから 」
「 河村さんの中の伊沢さんどうなってるんですか 」








 お昼付き合って。
 それだけ言われてノコノコ着いてきた私はカフェでサンドイッチを注文し、今現在、顔を隠しても神々しい雰囲気を隠せてない彼と向かい合っていた。

 どことなく彼から距離を置かれているような気がし始めてから、こうして向かい合って軽口を叩くのは随分と久しぶりだった。
 相変わらず感情の起伏が少ない私たちの会話は周りと比べて静かである。









「 ―――この関係、もう終わりにしようか 」








 だから、お互いに昼食を取り終わった後に紡がれたその衝撃的な言葉でさえ、私には僅かに海辺が波立ったくらいの衝撃しか襲ってこなかった。

 なんとなく、そんな気はしていた。
 形だけは付き合っていたけど、結局誰にもバレることなく今日まで来た、この曖昧な関係。
 体の関係も無いし、キスの一つもしてないし、誰にもバレていないとなれば、あってないような関係だ。きっと河村さんは、この曖昧な関係が重荷になってきたのだろう。









「 なんて、俺から始めたのに変な話だな 」
「 いえ、引き受けたのは私ですから 」









 お互いに会話の糸口を掴めず、机を挟んだ私達の間に穏やかな音楽と微妙な空気が混ざりあって通りすぎていく。

 賭けだとかなんだとかでよく分からないまま始まったこの生活。
 勝負の行方は伊沢さんに委ねられていた賭けだったけど、当たり前に彼は私を奪いに来ないし、本気で付き合う気も無さそうだから、河村さんはこの関係に終止符を打ったのかな。
 彼は優しい人だから、きっと私達の火付け役になってくれようとしたんだろうな。別に私達はそんな関係じゃないんだけど。









「 ……どうせ最後だし、たまには余計なことも喋っとこうか 」
「 余計な、こと 」
「 そう。蛇足とも言うね。―――俺は本気で、君が好きだったよ。そこは、勘違いしないで欲しい 」








 指先から滑り落ちそうになったコップを持ち直し、彼の顔を凝視する。









「 ……じゃあ、どうして 」
「 前までなら、伊沢が目の前で君を奪っていくのを見ても、きっと俺は傷つかなかったと思う。それどころか、囃し立てることだってできたと思うんだよね 」









 でもね、と。








「 ―――多分、今の俺には耐えられない 」









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作者名:朝田 | 作成日時:2021年1月6日 19時

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