好きにはならない ページ45
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あんなメッセージを何件も送っているということは、白石さんは本当に伊沢さんを好きになって、前に付き合っていた男性とは別れたのだろう。
伊沢さんはかなり迷惑しているようだけど、私が首を突っ込むような話でもない。当人達で勝手に解決することだ、きっと。
ふと、手の中で震えていたスマホの感覚を思い出す。
白石さんはあんなにも、伊沢さんのことが好きなのか。
結果としては逆効果だが、それでも、好きな気持ちに偽りはない……筈。
それに比べて、私はどうだろう。
彼の告白を全部冗談だと決めつけて、真剣に向き合わずに、流されるまま河村さんとの交際を始めた。
なにがしたいんだ、私は。
全部中途半端な私は、一体。
「 しずくさん? 」
「 っ……か、わむら、さん……すみません、ちょっとボーッとしてました 」
「 だろうね。眼鏡逆さにかけてるし 」
「 はっ?! 」
すぐ近くに居た河村さんにそう言われ、慌てて目元に手をやる。そして仕事中たまにかける眼鏡の縁に指を這わせると、確かにフレームが下に来ていた。
いくらボーッとしていたとはいえ、これは恥ずかしすぎる。デスクに戻ってすぐにかけた筈だから、もう三十分くらいはこの状態だった筈だ。
ねぇなんで。なんで誰も教えてくれないの。私なにか悪いことしましたか??
「 ……社長、盗撮で訴えますよ 」
「 失礼な。可愛いAちゃんをズームにして見てるだけだよ 」
「 余計キモいです 」
さっきから妙に視線を感じると思ったら、社長が気づいていた上でああして黙っていたのか。
今の今まで真剣に悩んでいた自分が馬鹿みたいだ。
あんな社長、好きなわけがない。真剣に向き合わなくたって分かっていたことだ。あんな変態で、煩くて、ウザくて、面倒くさい社長を、好きになんか。
―――『 俺が雪ちゃん好きな気持ちに嘘はないし、これからだってずっと好きだと思う 』
好きに、なんか。
「 ……社長なんて嫌いです 」
「 え……き、嫌い……?なんで??なんで急に??もしかしてさっきズームで見てたから??それともAちゃんが来る日は腹筋百回してるから???それともそれともAちゃんが来る日だけ香水変えてるから???そういうこと????ねぇそうなの?????? 」
「 やっぱめんどいこの人 」
……好きになんか、ならない筈だ、多分。
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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月3日 19時