目撃者になんて ページ46
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目撃者になんてならない方が良い。
だって、知らなくて良いことまで知ってしまうもの。
「 すみません、福良さん。俺ちょっと下行ってきます 」
「 急にどしたの? 」
「 いや、ちょっと……知り合いが来てるみたいで 」
「 あーなるほどね。はーい、いってらっしゃい 」
そろそろ定時が近くなってきてオフィスがガヤガヤし始めた頃、チラチラとスマホを確認していた伊沢さんがとうとうオフィスを出ていった。
あの様子だと、まだ白石さんからのメッセージが途絶えていなかったのだろうか。愛は本物だろうなんて思ってたけど、流石に限度はあるな。
今度バイト先に行ったときにでも伝えとこう。もうちょっと頻度抑えた方が良いんじゃないかなーって感じで。私にはそんな雑魚キャラ的言い方しか出来ない。
「 福良さん、私そろそろ帰ります 」
「 あ、うん。しずくちゃんもお疲れさま 」
「 お疲れー 」
「 お先に失礼します 」
これからまだ編集作業をするという福良さんと河村さんに別れを告げて、オフィスを出る。
日が沈んで大分涼しくなったが、流石東京。まだまだ暑い。
胸元をパタパタと服で扇ぎながら下まで辿り着くと、マンションの外には、対面する二人。伊沢さんと白石さんだ。じゃあ、あの『 知り合い 』っていうのは白石さんのことだったのか。
別に、だから私になにかが起こるわけでもない。二人がどこで何していようが彼らの勝手だ。私はさっさと彼らの横を通りすぎて、スーパーにでも寄ることにしよう。
関係ないんだ、全部。
だから。
「 っ…… 」
―――伊沢さんが白石さんにキスをされていたって、私が気にすることじゃない。
彼女に胸ぐらを掴まれてキスをされた彼は、暫く硬直していた。前に恋愛は偏差値2だからなって笑ってたもの。きっと動揺してるんだ。
あぁ、なんで頭はこんなに冷静なのに、動けないんだろう。ちょっとずつ後ずさることしか出来なくて、周囲の音が、どこかへ遠退いていく。
―――チーン
エレベーターが到着する音が漸く鼓膜に届いて、その瞬間、私の足は裏口に向かって走り出していた。
息が上手く出来ない。
頭がクラクラする。
全部忘れたい。
社長とのこと、全部。
忘れて、それで。
この動揺を、勘違いだって笑い飛ばしたい。
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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月3日 19時