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優しさと切っ掛け ページ40









「 俺ってさ 」
「 はい 」
「 残酷だよね。君にとっても、俺自身にとっても 」







 私の部屋がある扉の前。ふとそんな事を溢した彼は、指先だけが繋がった手を見つめて、寂しげに微笑む。

 「 分かってるよ 」と彼は言う。
 きっと、出会ったときからこういう人だった。本心に辿り着くまでがかなり遠回りで、回りくどい。



 それが、自分を落ち着かせるためなのか、こちら側への配慮なのか。
 その区別が出来るほど、私はまだこの人との月日を過ごしていない。







「 でも 」
「 …… 」
「 ほんの少し、この何気ない日々が、嬉しかったりするんだよな 」
「 本質は賭け、ですけど 」
「 君って時々デリカシーないよね 」







 つい情報を付け加えたくなって口が滑る。
 いけない。これが私の悪いところだ。思ったことが全て表面に出るところ。

 すみませんと慌てて謝罪すれば、彼は別に良いと言って小さく微笑んだ。







「 さて、それじゃあ僕はそろそろ寝たい気分だから帰ろうかな 」
「 それ本心ですか? 」
「 なわけないだろ。でも家に上がり込むほど積極的でもないからな、僕は 」
「 ……河村さんは大分積極的だと思いますけどね 」
「 まぁ、君からしたらそう見えても可笑しくはないか 」








 指先が離れ、彼がエレベーターに向かって歩いていく。
 寂しげなその背中はいつも見ている背中よりも、断然小さく見えた。

 私も部屋に入り、靴を脱いで廊下を進む。寂しい部屋。物もあまり置いていない私の部屋は、良く言えばスッキリしているが、悪く言えば少し殺風景だ。



 その中にポツンと鎮座している棚に近づき、伏せていた写真立てを手に取る。
 女々しいよな、ほんと。今もまだこんな写真にすがりついてるなんて。







 ―――『 君って結構肝座ってるのに、恋愛に関しては臆病だよね 』







 正直そう言われた瞬間、どきりとした。臆病だと言う自覚は自分のなかにもある。だからこそなるべく恋愛には関わりたくないんだ。

 どうせ付き合えたって、それまで積み上げてきた思い出は全部、最後には『 全部冗談 』で終わってしまう。
 どれだけ相手を思っていても、相手が自分と同じ気持ちかなんて、分かりやしない。






 ―――『 Aちゃーん! 』






 言葉通りの感情を抱いてるかなんて、分かりやしない。
 だから信じちゃダメなんだ。私なんかへの想いなんて。







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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月3日 19時

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