抱く想いと優しさ ページ39
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「 君って結構肝座ってるのに、恋愛に関しては臆病だよね 」
「 ……どうしてそう思われるんですか? 」
彼がそんなことを夕焼け空に呟いたのは、バイト先にまで迎えに来てもらった日の帰り道のことだった。
仮にも上司なのだからそんなことしなくて良いと言ったのだが、自由人な彼は「 近く通りがかったから 」なんて見え透いた嘘を吐いて結局私を迎えに来てくれた。
恋人なんて過去に一度しか居た経験が無いからなんとも言えないけど……多分、恋人ってこういうことなんだと思う。
彼氏が迎えに来てくれて、または、彼女が迎えに来てくれて。
それで家までの短い距離を、二人で並んで帰るみたいな。
「 なんとなくね。……しずくさんさ、伊沢のアピールのこと、告白の安売り的な感じで見てるよね? 」
「 ……まぁ、そういう節はありますね 」
彼の指先が私の指先に絡められ、自然と意識が現実に引き戻される。
今更手繋ぎくらいで赤面したりはしないが、少し気になるのは事実。この感覚があまりにも久々だからだろうか。
河村さんに言われ、改めて考えてみる。
確かに社長の告白を本気で受け止めたことはない。受け止めたら、なんだかもっと痛い目を見そうだから。
全部冗談でした、なんて。
その未来を考えて、私は線の向こう側に全く行くことが出来ない。
「 こんなこと俺が言うのもなんだけど、あいつ、割と一途だよ。告白だってしずくさん以外にしてる話聞かないしね 」
「 良いんですか。そんな助言して 」
「 どうだろ。微妙かな 」
その言葉を紡いだ瞬間、きゅっと私の手を握っている彼の指先に力が籠る。
前は、あの余裕綽々な笑顔の下でなにを考えているのだろうと考えることが多かった。
でも最近は、こういう細かい仕草で彼の心情が少し読み取れる。
多分、不安なんだ。
彼だって、恋多き人じゃないから。
「 ……さっきの、恋に臆病っていうのは、間違ってないです 」
「 そう 」
「 聞かないんですね 」
「 無理に聞き出すのは僕の趣味じゃないんでね 」
時々、この人の近くに居ることが怖くなる。
近くに居れば居るほどこの人の不器用な優しさに触れてしまって、どうしようもなく心が揺れてしまうから。
可笑しな話だ。比べる対象だって、揺れ動く対象だって居ない筈なのに。
……ふとした時に、伊沢さんの顔がちらつくんだ。
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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月3日 19時