雨宿りと恋の訪れ ページ36
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Aちゃんと初めて出会ったのは、オフィスで再会する半年前。その時も、やはり俺らを引き合わせたのは大粒の雨だった。
基本は自転車で移動する俺だが、その日は珍しく徒歩でスタジオに向かい、無事に降水確率30%に負けて傘を忘れたことを悔やむこととなった。
スタジオの外はすっかり雨模様。周りが次々と傘を広げて帰っていく中、俺だけが一人ポツンと取り残されていた。
「 取り敢えずコンビニまで走るか…… 」
いつまでもここで立ち往生している訳にはいかない。タクシーを呼ぶことも一瞬考えたが、それを待つくらいならば仕事をしたい。なら自分の足で帰った方が良いだろう。
こういうところがワーカホリックと言われる所以なのだろうか。
とにかく、早くオフィスに帰ろう。最悪風邪を引いたらその時はその時だ。責任を持って福良さんに休息を貰おう。
……と、思っていたのだが。俺が想定していた倍雨足は強かった。体に叩きつけられる雨粒の痛さに思わず近場にあった軒下に避難する。
いや、こんなに雨が重いと感じたのは初めてだ。痛すぎだろ。どんだけ威力あんだ。
「 くっそ…… 」
このままじゃ当分オフィスには帰れそうにない。ただの濡れ損だ。ここは諦めてタクシーを呼ぶのが無難か。
諦め半分、悔しさ半分。そんな複雑な気持ちを抱きながらスマホを取り出し、ここから一番近そうなタクシーを検索にかける。
オフィスに戻ってからも撮影があるし、なるべく早いと嬉しいんだが。
「 ―――あの 」
雨音に混じってそんなアルトが耳に届いたのは、雨を吸い込んで重たくなった前髪を退けたときだった。
振り返ると、そこにはカフェの店員が着ていそうなエプロンに身を包んだ女性が恐る恐るといった様子で立っていて、思わず横にかかっていた看板に視線が流れる。
『 cafe 』
前の単語を解読するには些か時間が足りなかったのだが、確かにその四文字だけは読み取れた。ということはここはお店の正面に当たる場所だったのだろう。
ならこれは多分、営業の邪魔だから退いてくれとか、そういう類いのやつだ。しまった。ちゃんと確認するべきだった。
「 っす、すみません、すぐ移動しま――― 」
「 あ、じゃなくて……もし良ければこれ、使ってください 」
だがそう言って女性が差し出してきたのは、一本の折り畳み傘だった。
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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月3日 19時