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恋の訪れは突然に ページ32










「 良かったら、そのまま僕と付き合わない? 」
「 ……はい? 」








 拝啓、父さん母さん。
 私、遅めのモテ期かもしれません。



 事の発端はバイト中。
 いつも通りせっせと働いて、生活費をじゃんじゃか稼いでいたのだが、運の悪いことに、私はある現場を目撃してしまったのである。

 その名も、逆ナン現場。女性が男性をナンパする時に用いられる言葉だが、店のすぐそこで発生していたその現場を、私は見てしまったのである。
 見てしまった以上、見過ごすわけにはいかない。仕方なく店長に事情を説明して、一時的にバイトを抜けさせてもらうことにした。









「 あ、お待たせー。ごめんね待たせて 」
「 ん? 」
「 でもごめん。まだバイトちょっとかかりそうでさ、もう少し待っててくれない?あ、良かったらお店の中で待つ? 」
「 ……うん。そうさせてもらうよ 」







 察しのいい人で助かった。私の言葉に上手く口車を合わせてくれた男性は、ナンパしてきていた女性二人に謝罪して、ちょこちょこと私の後ろを着いてくる。

 一先ず彼を席に案内して、テンプレ通り、お冷やを運ぶ。すると次に戻ってきたときには、マスクで隠されていた顔の南半球が露になっていた。
 そこで私はビックリ仰天。その人物はめっちゃくちゃに知り合いだった。







「 どうも、しずくさん 」
「 ……河村さんだったんですか。眼鏡無いから分かりませんでしたよ 」
「 動画でもたまに見せてるんだけどね。まぁ、君は知らないか 」
「 すみませんあまり熱狂的なファンじゃないもので 」







 河村さんほどの容姿ならば逆ナンされるのも頷ける。だってマスクつけててもにじみ出てるもの。なんかこう、神々しいなって感じのオーラが。

 もう少し話していたい気持ちもあったが、こっちはバイトだ。
 厨房から名前を呼ばれてメモを開きながら返事をすると、引き留めるように河村さんが声をあげる。








「ねぇ、さっきさ、咄嗟に彼女のふりしてくれたじゃない」
「まぁ、はい。咄嗟だったんで」
「 良かったら、そのまま僕と付き合わない? 」
「 ……はい? 」








 そして、物語は冒頭へ戻るのである。
 いや、あの、どういう理屈?どういう展開?どういう思考回路?

 一切予想していなかった展開に戸惑っていれば、もう一度厨房から声がかかる。
 仕方なく私は考えといてねという声を背に、彼の居るテーブルを離れた。








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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月3日 19時

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