恋する乙女と駆け引き ページ31
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結局バイト先まで伊沢さんに送ってもらい、彼はニコニコ笑顔でオフィスに帰っていった。
本当に物好きな人だとつくづく思う。私を送ることの一体なにが楽しいんだ。
お店に入ると、もう店長はテーブルを掃除して回っていて、私も早速挨拶をしてから控え室に着替えに行く。
うちの店長は働き者だから、私達店員はいつも助かっている。やっぱああいう人に部下ってついてくるんだよな、と店長を見ると毎度思い知らされるものだ。
「 あ、先輩こんにちは 」
「 あぁ、白石さん。こんにちは 」
控え室では丁度同じシフトに入っている白石さんがいそいそと制服に着替えていて、彼女の横にある自分のロッカーに、私も荷物を詰めていく。
白石さんとは、あの一件以来時々会話を交わすようにはなった。
あの時のお礼は一切言われていないような気がするが、どうせもう過去のことだし、蒸し返す気はない。忘れてんだろ多分。そういうことよくあるし。
「 あの、先輩って、伊沢さんと付き合ってるんですか? 」
「 ……は? 」
急に話しかけてきたと思ったらなんだその問いは。どう見たって付き合ってないだろ。どこにあの人と付き合う要素があるんだよ。私を彼女にして一体誰が得するって言うんだ。
なんだか必死に弁解するのも馬鹿らしくて、適当に「 付き合ってないよ 」とだけ返す。その間に上を着替えていると、服の隙間から「 良かったぁ 」という声が聞こえてきた。
いや、なにが?
「 私、あの一件以来、伊沢さんのこと好きになっちゃって……だから、安心しました 」
「 あー、そういうこと 」
まぁでも、私なんかと付き合うよりは、バイトで失敗ばかりしていても顔だけは一流な白石さんの方が、何倍もマシというものだろう。
おまけにサボりぐせもあるが、好きな人の前ではしっかりしていたというのが乙女心。これに関してはそこまで心配する必要もない。
なにやら勝ち誇ったような顔をしている白石さんを横目に、着替え終わった私はそそくさと控え室から抜け出す。
女子のああいう駆け引きのようなものは苦手だ。
私には別にそんな気はないのに、なぜか勝手に敵視されるんだもの。
「 店長、なにかすることはありますかー? 」
「 あぁ、しずくちゃん。じゃあ、食器の片付けお願いできるかな 」
「 分かりました 」
さーて今日も一日頑張るぞー。
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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月3日 19時