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あれは幻影か否か ページ26










 目を覚ますと、そこは見慣れた仮眠室の天井だった。
 重ダルい体は健在だが、朝の鉛に比べれば、五キロダンベルくらいには軽くなった。取り敢えず動き回る分には不便は無さそう。

 一体俺はどんな状態でオフィスまで来たんだ。自分で自分が怖いわ。



 唸りながら体を起こすも、思い返せば、この仮眠室に来るまでの記憶が一切無い。

 確かオフィスには無事に辿り着いて、そしたら……あぁ、そうそう。Aちゃんの幻影を見たんだ。
 それで幻影ではない河村さんに会って、忠告に答える前に倒れて……そっから、どうしたんだっけか。








 ―――『 伊沢さん!聞こえますか!伊沢さん……っ!! 』








 ……そうだ。聞こえない筈の、Aちゃんの声が聞こえたんだ。それに心配そうな顔も脳裏に焼き付いている。霞んだ視界で唯一、ハッキリと。

 あの揺さぶられた感覚は本当に俺の幻なのだろうか。でもAちゃんを幻影と仮定するなら、そうでなければ可笑しい。声も、指先も、表情も、全部。
 それとも、あれは全て、幻影でもなんでもない―――現実?








「 あ、伊沢起きたんだ 」
「 なんだ、福良さんか 」
「 なんだって、酷い言い草だな。折角人が看病してあげたのに 」








 悶々とAちゃん幻影説について考えていると、ドラッグストアの袋をぶら下げた福良さんが部屋に入ってきた。
 彼は「 しずくちゃんじゃなくて残念だとは思うけど 」と言うと、袋から取り出した冷えピタを一枚箱から出して、少々乱暴に俺の額へ貼り付けてくる。

 これでも病人なんだからもう少し優しくしてくれても良いと思う。








「 それに関しては感謝してします 」
「 ほんとかなぁ 」
「 ほんとほんと。ベリーベリーホント 」
「 因みにそれ一ミリも信用度上がんないから 」








 なんでだよ。渾身のギャグだったろ。どう考えても信用度爆上がり案件じゃん。

 心底自信のある俺に福良さんは呆れたようなため息をついて、今度は黙々と他の買ってきたものを机に並べ始める。
 必殺『 完全スルー 』ってか。いや、いくら俺のギャグが超つまんなかったからってスルーは酷くね?






「 そういえば、今日Aちゃん来てないっすよね? 」
「 え?来てるけど 」
「 ……え? 」
「 伊沢も可哀想だよねぇ。折角のしずくちゃん出勤日に風邪なんて 」







 じゃあつまり、あれは幻影ではない……?








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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月3日 19時

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