検索窓
今日:33 hit、昨日:4 hit、合計:195,749 hit

嫌いになれない ページ21









「 いざ、さ……っ 」
「 っあ、ごめん……!怖がらせるつもりじゃ……あ゛〜〜マジでごめん! 」







 情けなく涙が滲んできたところで、光の無かった彼の瞳にやっとハイライトが入ってくれた。
 それだけで心底安心して、しゃくりをあげながら社長に支えてもらって体を起こす。


 優しく抱き締めて、ポンポンと背中を撫でてくれる彼からは、先程の冷ややかな雰囲気はもう感じなかった。
 代わりに暖かい温度を持った声が「 ごめん。もうこんなことしないから。だから安心して 」と優しく私を安心させてくれる。

 まるで、さっきまでの彼が幻覚だったかのようだ。







「 Aちゃんがあんまりにも無防備だから、意地悪しちゃった。ほんとごめんな 」
「 う、うぅっ、わた、も……ごめ、なさ……っ 」
「 なんで謝んの。Aちゃんなんも悪くねぇよ 」








 あんな冷ややかな伊沢さんも始めてだけど、こんなに焦っている伊沢さんも始めてだ。
 いつもどこか飄々としていて掴みにくいけど、今だけは、彼という原型に指を沿わせている感覚がある。

 テレビの音と、私のすすり泣く声だけが響いていた部屋に、洗濯機が乾燥が完了したことを無機質な音で知らせてくる。
 これ以上彼の胸を借りる訳にも行かなくて、私はするりと社長の腕から逃れると、そそくさと脱衣所に向かった。




 ……なに、取り乱してんの、バカ。押し倒されたくらいで、バカじゃないのか、私は。
 彼にその気が無いことくらい分かってるのに、目の前にいるのが彼自身なのに。

 ……なんであの時、咄嗟に彼に助けを求めちゃったのだろう。






「 ……やめよう 」






 これ以上、さっきのことを掘り返すのは。

 洗濯機から乾いた社長の服を取り出して、丁寧に畳み、リビングに持っていく。彼はソファーに座ったまま頭を抱えていて、その姿を見ると、何故だか言い様の無い罪悪感が募ってきた。



 私なんかが、泣いたりしたから。
 私なんかが、取り乱したりしたから。

 だから彼は今、頭を抱えているの?






「 ……い、伊沢、さん…… 」
「 え……っ今、伊沢さんって言った?!言ったよな?!結婚しよ?!? 」
「 っ、言ってないです!ほら、泊まらないならさっさと着替えて帰ってください! 」






 ……なんて、そんなことあるわけないか。こんな人の事を一ミリでも心配した私がバカだった。
 今度から心配する相手は選ぼう。








神と呼ばれている人→←君はか弱い女の子



目次へ作品を作る
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (151 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
409人がお気に入り
設定タグ:QK , QuizKnock , izw
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月3日 19時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。