君はか弱い女の子 ページ20
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「 社長、今日泊まっていきますか? 」
「 え? 」
ご飯も食べ終わり、後はまったりするだけの時間。ソファーで並んでテレビを見ている途中、もう夜も遅いのでそう提案すれば、彼は素っ頓狂な声を上げて目を見開いていた。
私はてっきり、彼はこのまま泊まるつもりだと思っていたのだが、どうやら検討違いだったようだ。
まぁそれもそうか。ここは自分が経営する会社のアルバイトの家。いつ財布をすられるか分からない状況で、オチオチ安眠なんて出来やしないか。
「 いえ、嫌ならだいじょ――― 」
「 それ、他の人にも言ってんの? 」
「 ……ぇ? 」
次に素っ頓狂な声を出したのは私だった。いつもと違う、低く威圧感を含んだ声に、思わず尻窄みしてしまう。
こんな社長知らない。この人は、こんな声を出せる人だったのだろうか。こんな、暖かさの欠片もない声を。
―――『 流石に暴力は駄目だと思いますよ 』
……いや、一度だけこの声を私は聞いたことがある。
でもまさか、私までこの声を向けられる立場になるなんて、思いもしていなかった。
なにが、彼の声をここまで冷ややかにしてしまったのだろう。
「 ねぇ、どうなの? 」
「 え、と……乾、とかには……言ったり、します…… 」
これは事実だ。乾とは同い年ということで、立場は全然違うけど、それでも仲良くしてもらっている。
だから私が彼の家に泊まりに行くこともあるし、逆に乾が私の家に泊まりに来ることもある。
友達なら、それくらい普通じゃないのだろうか。
「 ……はぁ 」
社長は徐に大きなため息を吐き出すと、突然私の手首を掴んで、そのまま覆い被さるように押し倒してきた。
咄嗟に抵抗しようとするが、両腕は彼の手に押さえ込まれていて、動かせば動かすほどソファーに押し付けられていく。
なんだ、なにがしたいんだ、この人は。
全部冗談なんでしょう。
じゃあ、なんで。
なんでこんなことするんですか。
「 ……Aちゃんは、俺なんかが簡単に押さえつけられる、か弱い女の子なの 」
「 ……か、か弱くなんか 」
「 でも実際今、身動きとれないでしょ 」
怖い。彼が怖い。
今までただの変わった社長だと思ってたのに、今この瞬間だけは、彼が、彼の冷ややかな目が、どうしようもなく怖い。
……たすけて、いざわさん。
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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月3日 19時