役職は社長兼騎士 ページ12
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パシン、と乾いた音がしたが、一向に痛みはやって来ない。代わりに鼻を掠めたのは、よく車内で匂う香水の香り。
恐る恐る目を開くと、目の前には私よりも背の高い人物の背中。彼は振り下ろされた男性の腕を強く握りしめて、まるで、私を守ってくれているようだった。
「 流石に暴力は駄目だと思いますよ 」
「 っ……チッ 」
攻撃を止められたからか、余程彼が怖い顔をしていたのか。はたまた、言葉を紡いだ声が酷く冷ややかだったからか。
後輩の子に絡んでいた男性は分かりやすく舌打ちを溢すと、私の前に立ちはだかった彼を押し退けるようにしてレジに向かっていった。
ちゃんと金を払う倫理観はあるんかい。とツッコミを入れたのは、恐らく私だけではない。
「 Aちゃん大丈夫?!怪我は?!?掠り傷とかない?!?あったら教えて?!俺今すぐビルの屋上から飛び降りてくるから!! 」
「 ビルの所有者の方が困るのでやめてください 」
私を助けてくれた彼―――伊沢社長は、勢いよくこちらへ振り向くと、いつもの落ち着きのない様子で私の肩を掴んで捲し立ててくる。
さっきまでの冷ややかな雰囲気は一体どうしたんだ。
だが良く見ると、私の肩を掴む彼の両手は小刻みに震えていた。
一目で分かるほどの震えでは無かったけど、でも確かに、頼もしい両手が今だけは頼りなく震えている。
……こんなに震えるほど怖かったのに、どうして私なんかを助けてくれたのだろう。
「 社長、手、震えてます 」
「 え、あ、あぁ、ごめん。ちょっと、ビビっちゃってさ 」
「 ……あの、 」
ありがとうございました。そう私が紡ぐ前に、突然横からドーン!と衝撃がやって来て、私の体は呆気なく弾き飛ばされた。
見ると、先ほどまで私が立っていた場所には、男性に腕を掴まれて怖がっていた白石さん。
彼女は女の子らしく頬を桃色に染めると、普段より1トーン上げた声で伊沢社長に話しかけ始めた。
「 あの、助けてくれてありがとうございました……!私、白石真奈って言います!良ければ今度、お礼させてくれませんか! 」
「 あ、うん。白石さん。僕は大したことはしていないので、お礼なら雫石さんにしてあげてください 」
雫石さん。社長の紡ぐその響きに新鮮さを感じていると、何故か私は白石さんに睨まれる羽目になっていた。
いや、ほんとになんで?
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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月3日 19時