quatre-vingt-dix-huit ページ49
ルーピン先生に別れを告げた後、私は校長室に向かった。
大した用事があったわけじゃない。ただ、紅茶を飲むためだけだ。
『日本茶が飲みたいなぁ』
ダ「ホームシックかな」
私は苦笑した。
『元いた世界なんて考える暇がないくらい忙しいですよ』
私はルシウスから貰った指輪に視線を落とした。来年の鍵になるであろう、この指輪に。
気づかないうちに、私はため息を漏らした。
暫く沈黙があって、私がふと顔を上げると、校長は穏やかに私を見つめていた。
『……私、過去がないことが嫌で──勝手に溝を感じてたんです』
校長がゆっくりと頷く。
『でも、教授に言われて分かったんです。皆、私のことを大切にしてくれてるんだなって……確かに、私は嘘をついているし、皆と全てが一緒な訳じゃないけど』
正解が欲しいわけじゃない。ただ彼の言葉が欲しくて、私はその半月型の眼鏡の奥を見つめた。
ダ「この世界で君はすべきことがある。だがだからといって、自ら人と縁を切ることはあってはならん。──それは、誰でも同様じゃろう？」
どきっと心臓が跳ねる。何を取り繕ったって、結局彼の前ではすぐにバレるんだ。
『教授は……たとえ傷の舐め合いだとしても、私への優しさを見せてくれます』
はあ、と私は無理やり息を吐き出した。
『変な感じです。私が知ってる彼は、とっても意地悪だから』
ちょっとだけ切なく笑うと、校長は豊かな髭の奥で微笑みを浮かべてくれた。
ダ「君が知っているセブルスも、今君が見ているセブルスも、全て真実ではないのかな？」
『またそうやって掴みどころのないことを言って』
私が分かりやすくいじけて紅茶を啜るのを、彼は相変わらず穏やかに見つめていた。
ダ「君の知る物語と、この世界は全く同じか？」
私は目を伏せた。
『いいえ』
そして紅茶を机に置く。
『全く違うと言ったら嘘になります。それでも、今年はとても変わりました』
教授の証言とか、と付け加えると、校長は悪戯っぽく私を指さした。
ダ「それこそ君がいたから起こったことじゃ」
パチパチ、と思わず瞬きをする。
ダ「必ずしも君の知る未来はやってこない。何故なら、未来というのは酷く危うく──予知夢のように脆いものじゃ」
またこれだ。
だけど少なくとも私は、こう読みといた。
──私が動けば、未来が変わる可能性は大いにある。まさに今日のように。
ダ「臆病になるでないぞ」
私は、その言葉がまるで教授のことを言っているような気がした。
quatre-vingt-dix-neuf→←quatre-vingt-dix-sept
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1118人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハリーポッター」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
くるみん(プロフ) - 本当に素敵な小説です。一気に読み進めています(*´`) (2021年10月11日 10時) (
レス) @page50 id: b1b94321bc (このIDを非表示/違反報告)
ウンマ - とっても素晴らしいです (2021年3月8日 17時) (レス) id: b2f17d6310 (このIDを非表示/違反報告)
おばけ(プロフ) - yu-kaさん» ずっとコメントに気付かずごめんなさい！たった今直したところです。ご指摘ありがとうございました。遅くなって本当に申し訳ないです。 (2019年11月20日 11時) (レス) id: 44ca875d76 (このIDを非表示/違反報告)
yu-ka(プロフ) - いつも楽しく拝見させて頂いてます。ハリポタの小説の中で一番面白いです！余計かもしれませんが、p2の守護霊の呪文はエクスペリアームスではなくてエクスペクトパトローナムではないでしょうか？勘違いでしたらすみません。これからも楽しく拝読させていただきす！ (2018年7月4日 3時) (レス) id: 4be1b9fb48 (このIDを非表示/違反報告)
ユーレイ(プロフ) - 庵さん» ありがとうございます、頑張ります！ (2018年3月15日 10時) (レス) id: 19fb53cdaa (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：O
| 作成日時：2017年12月30日 23時
