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(ラグドールの血と、壊れた無線機……)
嫌な想像をしてしまう時風は、息を整えるのも忘れてしまう。
「遥、何見つけた」
背後から聞こえた兄さんの声に答えるように、そのまま振り返ってラグドールの壊れた無線機を見せる。
「これ……」
「応答がなかったのは壊れたからか……」
冷静に判断する兄さん。壊れた無線機を持つ時風の手が震えていることに気付いて、さりげなく掴んで広場を後にする。
「な、兄さん？ラグドール探さないと……」
「大量の血痕と、壊れた無線機。どこ探しても見つからなけりゃ、拉致されたな」
“拉致”のことばに反応する時風。思わず足を止めてしまう。
「助け出さないと……」
「今はそれより生徒の安否確認だ。遥も、肩の傷処置してもらえ、顔色悪いぞ」
引っ張られる形で無理矢理広場に出ると、未だに慌ただしく消防士や警察官が駆け巡っていた。
「ラグドール、見つかったか？」
戻ってきた時風と兄さんを見つけた虎が駆け寄ってきて尋ねた。首を横に振って答える時風は、申し訳なさそうだ。
「大量の血痕と、これしか見つからない……」
「まぁ、拉致されたと考えていいだろう」
「……そうか」
虎も何処か悲しそうで、でも時風がいる手前、いつものように接する。
「さぁ、遥は傷の処置をしてもらおう」
壊れた無線機を預かった虎は、救急の方へと時風を案内する。
「遥、傷は肩だけかな？」
虎の質問に頷いて答える時風。後ろからは兄さんが心配そうについてきている。
敵が去った事、傷を見てもらえる事で緊張の糸が緩んだ時風は、救急の椅子に辿り着く前に体の異変に気付いた。
「あ、れ……」
思うように動かず、少しずつ地面に座り込んだ。
「ハァァッハァァッ、ハァッ……」
息が思うようにうまく吸えない。
「遥？」
(何、これ……体が、動かない……)
「ッハァァッハァァッ……」
「遥！」
地面に手付いて立とうとするが、いつにもまして腕に力が入らない。
さらさらと流れる髪が視界を狭め、その中で涙か汗か分からない水滴が地面に落ちるのを見るしかない。
(肩の傷……処置しなきゃ……)
「大丈夫か!?遥！」
「おい、遥！しっかりしろ!!」
前後からの心配声が、今は煩く感じる時風。「大丈夫」が言い出せない。
(うっ、るさいっ……)
突如、背後からの揺さぶりに体が傾く。後ろにいるのは兄さんだ。
時風は、力なく兄さんに体を預けるように倒れる。
(にいさんっ……)
そして、時風の視界は暗中へと――……
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作者名：末崎時野 | 作成日時：2019年6月26日 12時
