生まれてきてくれて ページ21
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「誕生日おめでとう。
生まれてきてくれて、ありがとう」
貴方の声が、俺の髪の一本一本を揺らすように厳かに響いて、全身をしびれさせる。
優しくて…しなやかな声と、抱きしめる腕の強さと温かさ。
「……っ……」
胸がいっぱいで……ジワリと目頭まで熱くなった。
貴方に出会うことが運命で、
貴方に恋をするために生まれてきたのだと
誰かの恋唄にでてくるような…青臭いことを感じてしまう。
今だけは、それを許してください。
これから先、どんなに苦しめられようとも、
貴方の温もりを知った俺は……この恋から絶対に逃げたりしないから。
抱き返す腕を回すこともできないまま、
しばらくして……貴方の腕が離れていく。
「終わっちゃった」
微笑む貴方を見つめて、俺も笑った。
「……終わっちゃったね」
デジタル時計は０時を回り、
次の日の訪れと……俺のトクベツな日が終わったことを告げている。
元の位置に戻って、首元に手をやりながら今さらに照れている貴方。
「ごめんね」
「どうして謝るの？」
「だって、大の大人にすることじゃ無かったなって。
子ども扱いしたわけではないんだけど……
おいらが嬉しかった言葉だったから、
翔くんにも贈りたかったの」
「…………とても嬉しかったよ」
十分すぎるくらい……幸せだ。
ああ
俺は、幸せだよ。
「んふふ よかった」
それじゃあ、とドアを開ける彼と一緒に、
俺も、助手席のドアを開けて外に出た。
「幸せに……」
「？」
「幸せになって」
「……な、に？」
運転席の前に回り込んで、貴方の前に立ち
切なく軋む胸の内を抑えて……精一杯の言葉を贈る。
「貴方に幸せになってもらいたいんだ」
「ふふ おいらの誕生日じゃなくて、翔くんの誕生日だったのに。
急にそんなこと言うなんて、どうしたの？」
智くんが首を傾げる。
「結婚……するんでしょ？」
「え？」
「今日、一緒に旅行に行くはずだった人と……」
「おいら？」
「子供……生まれるんだよね」
「あ……」
だから。
「その子にも『生まれてきてくれてありがとう』って言ってあげるんだよね」
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