未練 ページ19
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「…………」
「…………」
夜の空港の…駐車場。
さっき俺たちが乗ってきた便と…その５分後についたのが最終便だったから、周りには人はいなくて。
そんな静かすぎて、暗い場所で……、ついにやってしまった。
彼の体を抱きしめた…高揚する気持ちと困惑がいり乱れて……俺はますます動けない。
「翔く…ん……？」
俺の腕の中で、彼が身じろいだ。
「どうしたの？」という純粋な問いかけの声色。
そこには俺のよこしまな気持ちなんて全く感じていない様子がうかがえて、
『引き返すなら今のうちだ』と教えられる。
「…………今日が終わらなければいいのに」
俺の口から出たのは、そんな言葉。
白い息とともに、俺の本音が夜の空気にかき消えていく。
ふふ…
「そんなに楽しかった？」
智くんが無邪気に喜んでいて、
「……うん。
楽しかったから、感極まっちゃったよ」
その笑顔を守りたいから、
俺は…この腕をほどける…と思った。
腕の力を抜いたら、貴方との間に入り込んだ冷気。
それでも冷めそうにない体のほてりを悟られないように、俺はそこから退いた。
「運転よろしくね、智くん」
俺の笑顔は不自然じゃないか？
彼を安心させられているか？
「任せてよ」
運転席に乗り込む智くんに頷いて、助手席に回り込む。
エンジンがかかる。
車内は外よりもずっと冷えこんでいて、
エアコンの吹出し口からでてくる暖房の空気は、まだ冷たいままだった。
「渋滞はなさそうだ」
ナビをいれて、到着時間を確認する。
その時間は、今日が終わるギリギリの時間だった。
「了解」
智くんは暖気運転をしながら、眠気覚ましのガムを口に入れた。
爽やかなミントの香りが漂う。
貴方の甘い香りを打ち消すような……強い力。
「俺にもくれる？」
その力を借りて、抱擁の未練を消した。
車が動き出す。
ゆっくりと目を閉じた。
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