冬の桜 ページ16
.
そこから先のスケジュールは、智先生が言うとおりにハードだった。
空港について、沖縄行きの飛行機に乗る。
エコノミーのシートに隣同士で座って、
車の中よりもっと近い距離にドキドキした。
空の旅を終え、本島に着いたらすぐさまレンタカーを借りて移動。
智先生は何度も来たことがあるようで、
地元の人でいっぱいの食堂に案内してくれ、安くてウマイ昼食にありつけた。
そこから、この旅行の本命の場所にむかう。
「す……ごい」
ピンクに染まった花弁が舞い踊る。
濃い色だけれど下向きについた花たちは、
慎ましやかに美しさを魅せていて……『可憐』という言葉がぴったりだ。
寒緋桜の並木道―――。
日本は今『真冬』という季節なのに…桜を見られるなんて思いもしなかった。
俺が知らなかった、美しい世界。
なんの言葉もでなくて、
桜が咲き乱れるその道を二人で並んで……ただ歩いた。
階段に少し息を切らせ、
時折 真下から覗き込んで桜を愛でる。
のぼった先にある展望台たどり着いて、
智先生がベンチに腰を下ろし、さっき通ってきた道を眺めていた。
「…………」
黙って穏やかに見つめるその姿に、
桜に感動していた俺の気持ち全部が……さらわれる。
冬の桜のように、これまでの常識を超えた……可憐で美しい人。
出会って、見つけてしまった……俺の恋。
伸ばした手で、黒髪に触れた。
「？」
隣に立ったままの俺を見上げる瞳に頬を熱くさせながら、指に取った桜の花弁を見せる。
「髪に……ついていたので」
優しく微笑み返されてそれ以上は何も言えなくなり、
俺も隣に腰を下ろして、桜並木に視線をうつす。
いつまでも……いつまでも。
こうして二人で並んで、美しい世界を見ていたい。
互いの姿を見つめ合うことがなくても、同じ先を見ていられるのならば、
(…………それで……幸せじゃないか)
なのに……
締め付ける胸の痛みに泣きそうになった。
何度も繰り返す『達観』という諦め。
それに耐えきれず悲鳴をあげる恋心。
それでも……
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 433人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
