せいいっぱい ページ12
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「結局、その日に出掛けることになったの？」
誕生日のご馳走は何がいいかと尋ねてきた姉さんに、
外で食べてくるから要らないと告げた。
「そうなんだ」
「誰かとごはんでも？」
「あー うん……。
まだ夕飯までの約束はしてないけど、
一日出るから、そうなると思う」
「そう。
誕生日に予定が入ってよかったじゃない」
姉さんはコロコロと笑って、俺のコートを衣紋掛けにかけてくれる。
本当にちょっと安心してるみたいだ。
「翔が休みをとって出掛けるなんて、久しぶりな気がするわね
仕事も理由だろうけれど、私と和のことで心配かけてたのもあっただろうし…」
「そんなこと…」
「楽しんでいらっしゃいね」
「……うん」
相手の方は俺の誕生日だからという意識はまるでないのだけど、
姉さんが嬉しそうにしてるから、そこまでは言わずにおいた。
自室に戻り、スーツを着替える。
居間にいくと、いつものように俺一人分の夕食が用意されていて、
その炬燵に、和が寝転んでゲームをしていた。
「寝なくていいのか？」
「…………」
こっちを見ようともしない。
どうやら、今朝のことをまだ引きずってるらしい。
俺は下手な手出しはせずに、
テレビのスイッチを入れて、夕食に箸をつけた。
「…………翔ちゃんはずるい」
ぼそぼそと聞こえた和の言葉。
一度は無視を決めて食べ続けていたら、炬燵の中で太股を軽く蹴られた。
「大人で……ずるい」
「意味がわからないね」
「さとし、とらないでよ」
「とるとか、とらないとか
もっと意味がわからないんだけど」
和とそのことで言い合うのは、正直もう御免だったから、
売られたケンカは買わないという意志表示をみせて、食べることを止めない。
「好きなんだろ？」
「………」
「翔ちゃんもさとしが好きなんだろ！」
和の率直さが本気で羨ましいし、俺には無理だと思った。
「友達なんだから、当たり前だろ」
そう返すのが精一杯。
…………ひどく悔しかった。
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