その前にお姉さんと遊んでくれる？ ページ16
四方八方から聞こえる金属音と呻き声の中を飛び回りながら、Aと小平太は一人の男の気配を探っていた。
作戦会議でAが言った最要注意人物。
Aは嫌な汗が首元を流れるのを感じた。
いつもだったらあの気持ち悪いほど禍々しい気配をすぐに見つけられるのに、今日に至っては姿も何も見えない。
(これは……)
「紛れているな」
Aの言葉に小平太が小さく目を見張る。
「…この中にか」
小平太は足下で繰り広げられる抗争を一瞥する。
二人の頭の中に最悪な展開が過ぎる。
もし紛れた男だと気付かず戦闘が始まってしまったら…
「…致命傷を受けるのは確実と言っても過言ではないか…」
「男の特徴は伝えてあるし、変装さえされなければ…」
そこまで言って沈黙が流れる。
気配も察知出来ない。姿も見当たらない。となればかなりの高確率で別の人物に変装されているということだ。
「亜月、急ぐぞ」
小平太の静かな闘志が宿る眼に、Aは頷いた。
.
「…はッ、は……はァ…」
数秒前に気を失わせたばかりの伸びている男達を見下ろしながら、兵助と八左ヱ門は肩で荒く息をする。
亜月が言っていた通り、人数は多くないが一人一人の実力がある。二人がかりでも三人を倒すのに時間がかかってしまった。
「大丈夫か、兵助」
「ああ、八左ヱ門こそ、怪我は」
兵助の問いに八左ヱ門は、先程刃が掠った腕を見ながら、平気だ、と返す。血は滲んでいたが大したことない傷だ。
「休んでいる暇は無い。加勢しに行こう」
その言葉に、その場を離れようとした瞬間、突然兵助と八左ヱ門の間に一人の気配が加わった。そして耳元で囁かれる甘ったるい女の声。
「その前にお姉さんと遊んでくれる？」
すかさず兵助と八左ヱ門は手に持っていた武器をそちらへ振りかざした。しかしそこに女はおらず、後ろへ飛んでさらりと避けた女は両手の寸鉄をクルクルと回した。
亜月が言っていた女だとすぐに気付くと、兵助の苦無を握る手に力が篭もる。
「てっきり逃げられると思ってたけど、ホントに遊んでくれるの？君たち」
女はくすくすと笑う。
「いいの？此処、私達以外に人居ないから、やられたら気付かれないかもよ」
「…やられねぇよ」
八左ヱ門は笑い返す。漂う殺気と緊張感で笑顔が引き攣る。先程までのヤツらとは違う実力者。間違いなく敗北イコール死だ。
ふっと笑うと女は地を蹴った。
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作者名：たると | 作成日時：2022年5月8日 19時
