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レオナルドの問いかけに、医師は下がってもない眼鏡をかけ直す。
「運び込まれた時には生体活動が止まっちゃってたんですよね、彼の細胞。ところが今も活発に働いている。
...心当たりがあるんじゃないですかね。ミセス・A。」
医師の柔和な声が信じられない程に冷たく感じた。医者故なのか、それとも彼の道徳心を逆撫でしたのかは分からない。
職業柄、彼は絶命する患者を目の当たりにする事は多い。助かる見込みが無いと判断した瞬間から、HLでの患者は死を確定される。どんなに異界の術に頼っても免れない終わりを迎える事は変えられないのだ、と。
「そんなに怖い顔しないで」
Aは声だけを医師に寄越した。ペリドットは赤銅色を食い入る様に見つめている。いつの間にか水滴がそこらに浮遊していた。
「私だって、やりたくてやったんじゃないわ。けれどね、生涯唯一の伴侶が死にかけたら、本能には逆らえないものよ。」
柔い指でスティーブンの角張った頰を撫ぜては、反応を確認する様に互いの顔を近づける。その様子は神秘的で、ひどく艶麗に見えた。
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「一体どういう事か、私にもわかるように教えてくれないか。」
他の診察があるから、と件の医者が退室した後、目のやり場に困ると感じる仕草を見せ続ける2人に、ようやっとクラウスが声を出した。後々ザップとレオナルドから大感謝されるのは言うまでもない。クラウスのその行動は勇者さながらであったからだ。
2人(特にA)は、クラウスの声掛けで肩を大きく揺らして振り向いた。詰まる所、彼らは完全にワールドイズアワーズを作り上げていたのだ。
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「僕はあの時、本当に死にかけた。というか、もう棺桶の蓋を閉じる手前まで来てた。」
「しかし、搬送される前に君は確かに傷が完治していた。私はこの目で確認した。」
「それはそれは。でも、まあ、Aが居なければ、僕は今頃本当に墓の下だろうな。」
「えっと、横から失礼します。
此処に来る前に、俺はAさんから『スティーブンさんを殺した』って聞いたんすけど、どういう意味だったんすか。」
おずおずといった様子でレオナルドが問いかけると、いつになく温度の低い虚ろな笑い声がAの喉から飛び出した。
「あの時の私はとっても動揺していたみたいね。言葉たらずだったわ。」
大切なものを隠す様に、白い腕がスティーブンの頭を包み込む。長髪は妖艶に笑う口を際立たせた。
「『人間の』スティーブンはもう死んだわ。」
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9t9 - 血界戦線大好きのスティーブン推しで貴方の作品を見つけました。本当にこの作品が大好きです!ツェッドさんとか出てきたら絡みがどうなるのかとかも楽しみだし単純にこの先の物語が楽しみでなりません!!更新が止まっていらっしゃるようですがずっと待ってます! (2022年10月19日 16時) (レス) @page38 id: f8f6fc2c71 (このIDを非表示/違反報告)
ひゃぼ(プロフ) - いつまでもお待ちしております...!!! (2021年8月28日 1時) (レス) id: 4c0d27bb14 (このIDを非表示/違反報告)
アリア - 初コメ失礼します。一人称は使い分ける方が良いと思います。ちょっとしたことですがこれだけで表現の幅がだいぶ違うと思うからです (2017年10月30日 19時) (レス) id: 5884d91fd1 (このIDを非表示/違反報告)
Rin(プロフ) - メヌエットさん» コメントありがとうございます。面白いと感じて頂けて嬉しいです! (2017年10月30日 1時) (レス) id: 409b7a99fe (このIDを非表示/違反報告)
Rin(プロフ) - nana☆さん» アンケート回答ありがとうございます!更新頑張りますね。 (2017年10月30日 1時) (レス) id: 409b7a99fe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Rin | 作成日時:2017年10月23日 8時