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私はあのあと、とにかく走り続けた。涙が枯れて、足の感覚もなくなり始めて。だんだん砂の粒が光り始めた頃、少し遠くの海に船が見えたような気がした。
もう走れなくなって、ふらつくから岩壁に手を付きながら一歩ずつ歩いていたら、遠くから声がしたようだったけどそれがどんな人物を思わせるのかもわからなかった。
紅のような布地を見たのを最後に、力尽きてしまって。…目が覚めたときには、活気ある声の重なりが耳に入って抜けていって、先程とは違う、あたたかいどこかにいた。
そこが死兆星号であったことは、私が気を失っている間ずっと隣にいてくれた万葉から教えてもらった。頭もまわっていなかったから”万葉がいるところは死兆星号”という大まかな見当もつけられなかったので、それを聞いて初めて理解した。
私は”何があったのか”という万葉…いや、北斗姉さんや船員たちの疑問に答えるべきかどうか、平蔵の言葉を反復させながらよく考えた。彼らは私を信じてくれるだろうか?”人をあやめた”かもしれない私をそう簡単に受け入れるだろうか?
しかし、船を長く浜に留めておくわけにもいかなかった。それ故私は決断を急ぐことになる。
結論、私は事の経緯をすべてありのままに話すことにした。
万葉に北斗姉さんを呼んでもらって、二人の前で揺るぎない”真実”を語った。…最悪海に落とされても仕方ないと思ったし、当時よく知らなかった姉さんはさておき、万葉が”信じてくれる人”だという確信、直感が少なからずあったかもしれない。
二人は疑うことなく私を受け入れ、度々様子を見に来るどの船員も私にあたたかい言葉をかけてくれた。こればかりは、北斗姉さんの信頼を直に感じるばかりだった。
臨時で船員として受け入れられた私は痛みで体を動かせなかったので、歩けるようになるまではずっと読み書きする仕事をしていた。四六時中一緒にいてくれた万葉のおかげで意外とすんなり慣れた。
すっかり回復してからは、船の上では気ままに、陸では万葉と行動を共にしている。相変わらず稲妻の状況も友人たちがどうしてるかもわからない。けれど、少なくとも今は楽しく過ごせている。
「風が穏やかでござるな」
「うん、今日は良いことが起こりそうな予感がする。…今日は備蓄、手伝えないけど」
陸が見えた。…そろそろ引っ込まないと。
まだお尋ね者であろう私は、故郷に顔を出せないのだから。
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名無し3680号(プロフ) - まくらもとさん» 読ませていただきました!最高でした。素晴らしいお話ありがとうございます! (2023年3月6日 22時) (レス) @page34 id: be46167942 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - 名無し3680号さん» 遅くなってしまってすみません。書き上げましたのでレス失礼します。書いてて「これでいいのか?」と悩んだんですが、まくらもとらしさを重視してそのまま投稿しました。ちょっと長いんですがよろしくお願いします〜 (2023年3月6日 21時) (レス) id: b517cf66d5 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - 名無し3680号さん» リクエストありがとうございます!!3.5の風花祭での登場もあると思いますし、ブリュー祭を振り返って想像を膨らませながら書いてみますのでお待ち下さいな。いつもありがとうございます! (2023年2月27日 16時) (レス) id: b517cf66d5 (このIDを非表示/違反報告)
名無し3680号(プロフ) - リクエスト宜しいでしょうか?ミカ君で夢主と事故キスする話しなど書けますでしょうか?いつも楽しく読ませていただいております! (2023年2月26日 22時) (レス) id: be46167942 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - ルーナさん» 好きじゃなかったら絶対「いつか旅に出られるといいね」としか言わなかったと思います。衝動で動いちゃう空ほんと… (2022年9月27日 22時) (レス) id: cfa18e3d30 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まくらもと | 作成日時:2022年9月27日 1時