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部屋で一人、他の仕事をはじめると外は賑わいはじめたようで心地良い声がいくつも響いている。
本当は一目見たかったけれど。
鍵を掛けた扉に耳を引っ付けてみた。…特に久しい声は聞こえなかった。残念に思いながらも安堵する。
肌身離さず持っている宝物が、今はなぜだかむず痒い。少しだけ、目の前に集中できていないかもしれない。
空に貰った"通行証"も眺めるだけになってしまったから、やっぱり寂しかった。
「…それで、探してるんだけど…万葉でも…」
どくり。
甲高い声が途切れ途切れに聞こえる。あれは、そう。確実にパイモンだ。
天領奉行からの依頼でも冒険者協会に届いてるんだろうか。私の名前が聞こえた気がした。やっぱり、そうだよね。重罪のお尋ね者なんだから。
一応大きな物音はたてないように。気を紛らわせるために地図に目を向けた。
___コンコンと戸が鳴る。
これは、開けていいのだろうか。
「拙者でござる、まずは開けてくれぬか」
…万葉。
ゆっくりと手をかけて、少しの隙間から外を見た。
「A…!」
「ぅ、空、」
やばい、捕まる。そう思った。
けれどそんなの杞憂で、二言目に聞いたのは"会いたかった"という言葉と優しく握る手だった。
「探してた。生きてて良かった」
「えっと、うん?」
「Aの容疑が晴れたよ、もう隠れなくてもいい」
「っえ?」
行こう、皆も探してる。
そう言う空に理解できない私。すぐさま手を掴まれワープされるものだから混乱する。
え、え?ちょっと、どうしよ、万葉、
思い浮かぶ単語をひたすら並べながら引っ張られていく。
「どういうこと、まだわかってないって、ねえ空、…あ、」
「、A」
…突然止まったので反射的に前を見ると、緑の瞳と目があった。時が止まったようにさらに私を混乱させる。
「A、A!」
なんだろう、どんどんおっきくなる。
そして勢いよく飛びついてきたので、はっと目が覚めた気がした。
鼻を啜る音につられて、私も枯らすほど流したあれが溢れ出た。平蔵だ。そう思うとただ泣くしかなかった。
言葉を放たないまま、抱きしめ合うだけだった。あんなに組まれた肩、腕。その暖かさ。全てが懐かしい。
「君を信じて良かった、ずっと会いたかった」
私も、信じてくれてありがとう。
その言葉は嗚咽に遮られてしばらく言えなかった。
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名無し3680号(プロフ) - まくらもとさん» 読ませていただきました!最高でした。素晴らしいお話ありがとうございます! (2023年3月6日 22時) (レス) @page34 id: be46167942 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - 名無し3680号さん» 遅くなってしまってすみません。書き上げましたのでレス失礼します。書いてて「これでいいのか?」と悩んだんですが、まくらもとらしさを重視してそのまま投稿しました。ちょっと長いんですがよろしくお願いします〜 (2023年3月6日 21時) (レス) id: b517cf66d5 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - 名無し3680号さん» リクエストありがとうございます!!3.5の風花祭での登場もあると思いますし、ブリュー祭を振り返って想像を膨らませながら書いてみますのでお待ち下さいな。いつもありがとうございます! (2023年2月27日 16時) (レス) id: b517cf66d5 (このIDを非表示/違反報告)
名無し3680号(プロフ) - リクエスト宜しいでしょうか?ミカ君で夢主と事故キスする話しなど書けますでしょうか?いつも楽しく読ませていただいております! (2023年2月26日 22時) (レス) id: be46167942 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - ルーナさん» 好きじゃなかったら絶対「いつか旅に出られるといいね」としか言わなかったと思います。衝動で動いちゃう空ほんと… (2022年9月27日 22時) (レス) id: cfa18e3d30 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まくらもと | 作成日時:2022年9月27日 1時