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「暗いよ、しょーねんっ！」
いきなり背後から明るすぎる声が掛かり、カイコクはギクッと震えた。
振り返ると案の定、先ほどの少女が立っていた。
カイコクに口を開く暇すら与えずお茶を乗せたお盆を片手に持って背中を押してくる。
「そんな辛気臭い顔してないで座って座って！ 今お茶入れてあげる！」
勢いに反抗の言葉も飲まれて、されるがままに座布団の上に腰を下ろす。
にこにこと気味が悪くなるほどに笑っている彼女も、和卓を挟んで向かい側に座った。
卓上に湯飲みが
「······あんたは戻らねェのか」
「んー? ······戻ってほしいの?」
ふたつの湯飲みをちらっと見て顔を向けずに問いを投げ掛ける。
けれど彼女はやっぱり問いに問いを返した。
戻ってほしいかと訊かれると、なぜか言葉が出なかった。
それでも見栄を張って声を絞り出す。
「別に······。戻ればいいじゃねェか」
「うん、わかった。戻らないね」
「おい」
ふざけた返答に思わず顔を上げると。
「あ、やっとこっちちゃんと見た」
貼りついたような笑みとはまた違う、優しい、和やかな笑みを浮かべた彼女が。
和卓に肘をついて目を細める彼女に口をつぐむ。
「顔に戻らないでほしいって書いてるよ、カイコクくん」
「······訊きたいことがあるだけでェ」
嘘は言っていない。
戻らないでほしいという訳ではなく、訊きたいことがあるだけなのだと、
カイコクは誰にでもなく言い訳をした。
「なーに訊きたいことって」
「あんたの、名前」
彼女の問いに、顔を背けながらぶっきらぼうに答える。
クスクスと笑う彼女。
唐突に立ち上がって部屋を出ると、なぜか将棋盤を持って戻ってくる。
「暇でしょう? 一局付き合ってくれたら教えたげる」
呆気にとられるカイコクと、やる気満々の彼女。
一方的な申し込みから、対局が始まろうとしている。
パチッ、パチッ、と将棋を指す音も、遠くで鳴るものでなくなろうとしていた。
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作者名：花藺 | 作成日時：2018年5月25日 20時
