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職場から少し離れた、静かな洋食屋さん。
レトロな趣があるそこは、「一人じゃ入れないからAちゃんが声かけてくれてよかったぁ。」なんて言った深澤さんが選んでくれた。
名物はあの日と同じ、オムライスらしいそのお店。
そんな偶然にだって胸をときめかせるのだから、恋する乙女の思考は実に単純だ。
深澤「Aちゃん、何にする?」
「えっと、じゃあ……このお店オススメのオムライスで。」
深澤「お。いいねぇ。俺も同じのにしよっと。」
目の前に座る深澤さんはさらっと店員さんに注文を終えて、いつもみたいな余裕のある笑顔を見せる。
あぁ。好きだなぁ。
……うん。やっぱり、好きだ。
「あの、」
深澤「そういえば、」
珍しく重なった、私と深澤さんの声。
意を決していた私は、一瞬だけひるんだ後にそれでも話を続けようとまた息を吸った。
けれど__。
深澤「俺ね、今日はAちゃんに相談したいこと、あったんだよね。」
「っ、えっと、そ、相談ですか……?」
思いがけず、深澤さんが話し始めてしまって、私は言葉を止める。
しかも、相談だなんて言われたら自分の気持ちをぶつけるよりも優先するしかない。
ちょっとだけ気持ちを落ち着かせるために、テーブルの上のお冷を飲んで深澤さんに向き直った。
「相談って……?どう、されたんですか?」
深澤「んー。ふふ。」
「?」
深澤さんは、困ったように笑う。
なんだろう。
よほど言いづらい相談なのだろうか。
だけど、私を信じて打ち明けてくれようとしてるんだよね。
それなら私、深澤さんの力になりたい。
「あ、あの!私、頼りないかもですが、でも、一人より、二人で考えた方が何かその……ちょっとは参考になるような話が出来るかも、しれません!」
深澤「……」
「ど、どうでしょう?」
深澤「…ははっ、うん…、ありがとうね。」
深澤さんが、優しく微笑む。
それだけで胸のドキドキがうるさく音を立てて、世界はこんなに色鮮やかになる。
___ただ、同時に、好きな人の言葉は簡単に地獄にも突き落とす。
深澤「俺、婚約者がいるんだけどね?」
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たぬ(プロフ) - 塩さん» 胸が暖かくなるやさしいコメントをありがとうございます。まだまだ上手く書けないですが、これからも楽しんで頂けるようがんばります!読んでくださりありがとうございます。 (2月23日 20時) (レス) id: dc32266bd7 (このIDを非表示/違反報告)
塩 - ふわふわしてて可愛らしくて、綺麗な文でつくられているのでとても好きな作品になっています𓈒𓏸これからの展開も楽しみにしています…! (2月21日 22時) (レス) id: 2759139232 (このIDを非表示/違反報告)
たぬ(プロフ) - 翡翠さん» 続きを楽しみにして下さり、コメントもありがとうございます!泣いて下さるなんて、申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちがせめぎ合っています。笑 続きも楽しめますように。 (2月13日 2時) (レス) @page40 id: dc32266bd7 (このIDを非表示/違反報告)
翡翠(プロフ) - 切なすぎて泣きながら読みました笑 続きが楽しみです (2月11日 22時) (レス) id: 6c0d9e0967 (このIDを非表示/違反報告)
たぬ(プロフ) - もぐさん» ご感想ありがとうございます。この作品が面白いのか私自身分からなくなってきていたのでそう言って頂けるととても嬉しいです。素敵な応援をありがとうございます。更新頑張れそうです…! (2023年2月24日 22時) (レス) id: dc32266bd7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:たぬ | 作成日時:2022年11月27日 15時