山田三郎/少しだけ ページ32
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最後尾の1番窓際。
それが彼の定位置。
くじ引き制の席替えでも、何故だか彼はそこを引き当ててしまうのには、何度だって慣れはしない。
最後尾、1番窓際の、右隣。
これが私の定位置。
左隣の彼同様、私もくじ引き制の席替えで、毎度の如くここを引き当てている。
中学3年の春、入学当初からイケメンだと評判だった彼の隣に座るには、少々の勇気が必要だった。
「山田くんと同じクラスなんて嬉しいよぉ〜!」
「よろしくね〜」
先に教室にいた彼の席の周りにクラスの女子が集まっているのが、教室の扉から見えた。
「うわー、相変わらず初めは人気だね、山田」
「そうだね……」
共に登校してきた友人と苦笑いをしながら席に近づく。
「ねえねえ、山田くんって何が好きなの?」
中3にしてはキラキラと煌びやか過ぎるクラスメイトがそう声をかければ、今まで読んでいたであろう本を閉じ、ゆっくり彼女らに視線を向ける山田くん。
「…………ボードゲームが好きだけど…君たち、どうせ出来ないだろ?」
ひんやりと冷たい声で彼女らにそう告げた彼は、何も無かったかのように、再び本を開いてそちらに視線を向けた。
「なっ……な、なによっ!!!」
これといった言い返しの言葉が思いつかなかったのか、それとも、彼の性格に動揺したのか、どちらにせよ私の机を盛大にずらしながら、謝りもせず自分たちの席の周りに引いて行く。
「……大丈、夫…?」
机を直しているとき、衝撃で落ちてしまったキャラクター物のクリアファイルを手にして渡しながらそう声をかけてきたのは、隣の席の山田くんで。
「…、だから、その…」
もごもごと口を動かしながら、ほんのり耳を赤くし目線をそらす彼は、先程女子たちを躱した彼とは大違い。
前の席でそれを見ていた友人は何故かぷるぷると震えながら「マジか山田」なんて呟いてる。
「えっと、大丈夫、です…あ、ファイル、拾ってくれてありがとう、!」
「あ…う、うん、」
ファイルを受け取りながらそう言えば、目線はそのまま、首を縦に振る山田くんは、私がファイルを受け取ったことを確認し、そそくさと本を開いてペラペラと忙しなくページを捲る彼。
「な、なんだったんだろう…」
呆然とする私に、「山田、あんたに気があるんじゃん?」なんて耳打ちしてくる友人。
そ、そんなことって…。
小さく鳴った心臓を意識して、だんだん顔が熱くなるのがわかる。
もう一度彼の赤い耳を見てしまえば、少しだけの可能性でも、勘違いしてしまいそうだ。
………
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星妻桜@姉妹同盟(プロフ) - 主の心を俳句に 好きすぎる 推しイケメンか 無理しんど (2020年9月17日 2時) (レス) id: fe16128dce (このIDを非表示/違反報告)
おやたぬき(プロフ) - 綾海さん» 了解です!リクエストありがとうございます!!さては寂雷先生推しですか??()遅くなりますが、気長にお待ちください! (2019年2月20日 22時) (レス) id: 42caa9770f (このIDを非表示/違反報告)
月華姫(プロフ) - こんばんわ!リク受付ありがとうございますm(__)mはい!完成ゆっくり楽しみにお待ちしています♪おやたぬき様のペースで此れからも頑張ってください!!ではまたっ (2019年2月20日 21時) (レス) id: 8c63610ac2 (このIDを非表示/違反報告)
おやたぬき(プロフ) - 月華姫さん» 了解しました!!遅くなってしまうかもしれませんが、気長に待っていただけると嬉しいです!リクエストありがとうございます!! (2019年2月20日 21時) (レス) id: 42caa9770f (このIDを非表示/違反報告)
綾海(プロフ) - リクエストで、交通事故でPDSDになってしまった夢主(寂雷先生の年の離れた妹)と寂雷先生のお話がみたいです。 (2019年2月18日 20時) (レス) id: ba228ed2f1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おやたぬき | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/sakuhi/
作成日時:2018年9月27日 21時