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彼女に言われた通り自然な感じを心がけて、打ち合わせ場所まで向かう。信号を渡り、建物に沿って歩き、やがて、以前背中を押されて捻挫をした歩道橋に辿り着いた。よりにもよってまたここか、と気持ちが憂鬱になる。
あの出来事以来、歩道橋やそういう階段のような場所が、あまり使えなくなった。いつ背中を押されるのか、いつ殺されるのか。そう考えると、恐怖で足が竦む。
≪君には無理をしてほしくない、とは思うが、これは犯人を誘き出す為の作戦だ。君はこれからも、名も知らぬ男に怯え続けるのか?嫌だろう?さぁ頑張れ≫
「簡単に言わないでくださいよ……」
でも確かに、こうして誰かも分からない影に怯え続けるのは、俺の精神衛生上宜しくない。彼女に言われたように歩道橋の階段を一歩、上がった。
一歩、一歩とゆっくりと上がって、平坦な所に出る。一先ずそこで息を吐いて、今度が本題だ。下りの階段。
以前とは違い、手摺を完全に掴んで一歩一歩確かめながら一番下まで降りるが、それらしい人物とはすれ違いもしなかったし、後ろにも居た気配は無かった。
≪どうやらまだ現れてないみたいだね。じゃ、君は打ち合わせ頑張ってきな。私はスマブラする≫
「……音量下げといてくださいね」
≪任せとけ≫
任せとけと言ったくせにインカムからはスマブラの起動音が聞こえてきて、もういいやと諦めて打ち合わせ場所に向かう。ここから先は信号の所を気を付ければ、特に問題は起こらないだろう。一先ずは、安心か。
「―――終わりましたよー」
≪お、長かったねぇ。もう夕方だぜべいべー?≫
「ゲームのシミュレーションもあって、思いの外長くなりました。神津さんは?」
≪こっちはオンラインで25戦25勝した。ささ、じゃあ行こうか、ぴー君よ≫
「はーい」
打ち合わせと会議も終わり、建物の外に出てインカムに話し掛けると、丁度ゲームが終わったらしい彼女の声が近くなった。その事に何故か安心感を抱きながら、俺は歩道橋に向かって歩き始める。
歩道橋が近くなるにつれて、俺の足取りは重くなった。大丈夫だと言い聞かせてはいるが、体は正直だ。あの日の恐怖をもう味わいたくないと、自然と向かうことを拒否している。
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白菜(プロフ) - 河良紅好さん» ご報告ありがとうございます!助かりました!早急に修正させて頂きます! (2020年6月16日 22時) (レス) id: a14ef8aee6 (このIDを非表示/違反報告)
河良紅好(プロフ) - はじめまして、陰ながら白菜さんの作品を楽しく拝見させて頂いてます。大変失礼ですが、事件No.5の2ページ目の「マーキング」が「マーケティング」になっていました事をご報告させて頂きます。 (2020年6月16日 21時) (レス) id: a18b40da37 (このIDを非表示/違反報告)
るーと - この作品を読むのが最近の密かな楽しみになっています。ご無理をなさらない程度に更新頑張ってください!これからも楽しみにしてます! (2020年6月12日 21時) (レス) id: 300feac1d8 (このIDを非表示/違反報告)
餅兎(プロフ) - 遅ればせながら新作ありがとうございます…! Twitterで設定をお見かけして以来ずっと心待ちにしておりまして、余りのことに学校滅ばねえかなとまで考えておりました。早速背筋の凍るような展開にゾクゾクしております、更新頑張って下さい。 (2020年6月11日 20時) (レス) id: 10f5dc34bc (このIDを非表示/違反報告)
神木(プロフ) - 占ツクを開くたびに更新されてないかなーって確認するくらい更新とても楽しみに待っています!更新頑張ってください! (2020年6月11日 16時) (レス) id: ded004bcdf (このIDを非表示/違反報告)
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