【Q|K】会社専属探偵【all】

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　だがここで立ち止まる訳にはいかない。息を大きく吸い込んで、現れた階段を駆け上がる。運動不足の影響か、平地についた時にはかなり息が上がっていた。



≪なになに、運動？面倒くさがりな君にしては珍しいね≫

「なわけないでしょっ」

≪ははっ……初めて、口調を崩してくれたな≫



　ゆっくりと下りの階段に向かっていると、彼女が小さくそう呟いた。下りの階段を目の前に、え？と返すと、インカムの向こうから荒い息遣いが聞こえてくる。背後で車の音もする。

　……走って、る？



　―――ドンッ



「は、？」



　その時だった。突然背中に強い衝撃を受け、体が前に倒れていったのは。今回は手摺を掴む時間なんて無い。完全に、気を抜いていた。

　これで最後か、なんて。いざこの場面に直面すると、案外脳内は冷静になっていた。死ぬ間際になると、人の脳内の回転速度は早くなる。その時の俺も例外ではなく、今までの記憶がまるでカセットテープの様に流れていった。


　……あーまだ、やり残したこと、めっちゃあるんだけどな。



≪―――安心しなよ≫

「っ……かみ、づさ」



　インカムから彼女の声が聞こえた瞬間、腕を掴まれ、強い力で後ろに引き戻された。
　それと入れ違いになるようにして、さっきまでこの場に居なかった筈の彼女が階段に、投げ出されていく。咄嗟に伸ばした手は、彼女の服を掠めただけだった。


　勢いをそのままに尻餅をつき、ガンッと後頭部を歩道橋の柵にぶつける。インカムに、ノイズが走った。一瞬歪んだ視界の中で見えたのは、階段下に消えていく神津さんの姿と、すぐ傍に立っていた、男。

　その男に、俺は見覚えがあった。昔、俺にちょっとした嫌がらせをしてきていた、男だ。名前は、覚えていない。



「おま、え……っ」

「っお、お前が、お前がすぐに死なないのが、悪いんだからな！！俺は悪くない！！全部お前のせいだ！！！」



　なにを言っているんだ、この男は。例えその行動に移るまでにどんな経緯があったとしても、今この場にある事実は、俺を突き飛ばそうとして別の女性を巻き込んだという事実だけだ。それを、自分は悪くなくて、全て俺のせいだと。

　こんな奴に構っている暇はないと思った。俺は痛む後頭部をそのままに、階段を駆け降りる。恐怖なんて、この際二の次だ。






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