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「……電話……」
その時、ポケットに入れていた携帯が振動していることに気がついた。また友人の悪い知らせかと身構えた俺の視界に映り込んだのは、神津Aの文字。
そういえば、連絡先を交換して、彼女から電話がかかってきたのはこれが初めてだった。
徐に電話マークを右にスライドして、耳に当てる。スピーカーからは、はっはっという荒い息遣いが聞こえてきた。それに続いて、焦ったような彼女の声が、鼓膜を震わせた。
≪今何処だ、川上拓朗ッ!!≫
いつもの拓朗君、なんて呼び方ではなかった。本気で俺の居場所を探している彼女の声音に、何故だか優越感が芽生える。
なんでも知っている彼女が、今だけは、俺の居場所を知らない。こんな状況なのに、彼女はこんなにも焦っているのに、呑気にそんなことを考えてしまっている俺は、最低だろうか。
≪分かってるだろ、通り魔の狙いはお前なんだ。だから、さっさとオフィスに戻れ。それか、辺りに人気がないなら、近くの駅に駆け込め。早く、今すぐに!≫
「……それってつまり、俺が死んだら、」
≪は……?≫
「―――俺が死んだら、もう誰も傷つかないって、ことですよね」
気づけば、そう口にしていた。
……そうだ。簡単なことだったんだ。俺がさっさと殺られてしまえば、山本も、友人達も、誰も傷つかずに済んだ。俺がもっと早く、殺られていれば。
ここ一ヶ月間の事件の終わりが分かった瞬間、俺の中のあった恐怖や不安が、全て消え去った。
背後から、気配を感じる。徐に振り返ると、そこに立っていたのは男だった。雨なんか降っていないのに、黒いレインコートを羽織った、男。
いつもの俺ならば、ここで情けなく足が竦んで、動けなくなっていた頃だろう。だが今は、刃物を見ても、男を見ても、俺はなにも感じなかった。
徐にナイフを持った男の元に近づいて、刃の部分を握り、喉元に近づける。男はそんな俺の様子に、呆気に取られていた。フードの下の目が、驚きに目を見開いている。
「殺したいんやったら、さっさと殺せよ」
手に力を込めると、ぷつっと掌の皮膚が切れた感覚に続き、真っ赤な血が手首を伝う。
折角のチャンスだというのに、男は全く動く気配が無い。寧ろナイフを握っている手はふるふると震えていて、男の目はまるで、化け物でも見ているかのようだった。
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白菜(プロフ) - 河良紅好さん» ご報告ありがとうございます!助かりました!早急に修正させて頂きます! (2020年6月16日 22時) (レス) id: a14ef8aee6 (このIDを非表示/違反報告)
河良紅好(プロフ) - はじめまして、陰ながら白菜さんの作品を楽しく拝見させて頂いてます。大変失礼ですが、事件No.5の2ページ目の「マーキング」が「マーケティング」になっていました事をご報告させて頂きます。 (2020年6月16日 21時) (レス) id: a18b40da37 (このIDを非表示/違反報告)
るーと - この作品を読むのが最近の密かな楽しみになっています。ご無理をなさらない程度に更新頑張ってください!これからも楽しみにしてます! (2020年6月12日 21時) (レス) id: 300feac1d8 (このIDを非表示/違反報告)
餅兎(プロフ) - 遅ればせながら新作ありがとうございます…! Twitterで設定をお見かけして以来ずっと心待ちにしておりまして、余りのことに学校滅ばねえかなとまで考えておりました。早速背筋の凍るような展開にゾクゾクしております、更新頑張って下さい。 (2020年6月11日 20時) (レス) id: 10f5dc34bc (このIDを非表示/違反報告)
神木(プロフ) - 占ツクを開くたびに更新されてないかなーって確認するくらい更新とても楽しみに待っています!更新頑張ってください! (2020年6月11日 16時) (レス) id: ded004bcdf (このIDを非表示/違反報告)
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