【wrwrd】突然の思いつきによる初心者の短編集。 (ページ16)

今日:3 hit、昨日:0 hit、合計:9,219 hit

試食してください　rbr ページ16

「ロボロさん、これどうぞ」

淡いピンク色の弁当箱がひとつ、俺のデスクに置かれる。

中身は言うまでもなく俺の昼食なのだが、弁当を持って来たのは恋人でもなんでもなく。

同じ部署で働くただの後輩だ。多少仲はいいが、友人とご飯に行くとき、どうせならと連れていく程度。
本当にそれだけで、かわいい女の子にお弁当作ってもらっちゃった！と脳内ではしゃぐようなことは断じて無い。断じて。

とりあえずAさんにお礼を言って弁当の蓋を開けると、普通に美味しそうな中身が目に入った。

そう、美味しそうだ。美味しそうなのだが。

「……なんか、あれやな。母さんが作ったやつみたい…」

「うっ…」

なんというかこう、全体的に茶色いのだ。彩りが薄いというか、なんとなく味気ないというか。

“若い女の子”が作る弁当には程遠いように感じ…いや、こういうのは童貞特有の女に夢見てるアレ。やめておこう。

「だって！仕方ないじゃないですか！こちとら料理初心者ですよ？！しかもロボロさんの好みに合わせてたら茶色い弁当になるに決まってんじゃないですか！！」

「えっご、ごめんなぁ…」

ぷんぷん怒りつつ、早口で捲し立てるAさんに多少は罪悪感を感じ、慌てて両手を合わせる。

これでも、彼女は進歩した方なんだから。

それこそ半年程までは卵を割ろうとして握り潰す系女子だったAさんこと怪力女が、流行りに疎い系お母さんにまで成長しているのだ。
同僚達に料理のコツを聞いて回り、先程も出てきた友人達に俺の好みを聞いて回り。

その結果がこの弁当だ。
文句は言うまい。

かと言って、Aさんは俺に気があるのかと問われれば、俺もAさんもNoと言うだろう。

これにはれっきとした理由があるのだ。