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続き ページ11

机に突っ伏して眠っているAを視界の端に捉え、予想通りになったとため息をついた。
こんな状況になるのは何回目だろうか。少ない回数ではない。そしてその度に自分が家まで送っていくのだ。しかも本人はそのときの事が記憶には無くて、自分の足でちゃんと帰っているのだと思い込んでいるのでたちが悪い。


「……本当に手間がかかる部下だ」


不意に呟いた言葉に、自嘲する。
この状況になるのを回避するのは簡単なのだ。彼女が酒を早く飲み進めるのを止めればいいだけの話だし、酔う前にここを出るという手段もある。それに、わざわざ送り届けなくてもそのまま置き去りにするという選択肢さえあるのだ。

それを、しないのは……


「あ、お客さん。いつもありがとうございます」

「別に構わないさ。ただ部下の面倒をみているだけだからね」


言いながら椅子に掛けておいたコートをAにかける。かなり深い眠りについているらしく、それくらいの刺激では起きなかった。
そう、部下。自分は部下の世話をしているだけなのだ。
そう自分に言い聞かせ、何時ものようにAを背負い外へと向かう。


「ありがとうございました」


そんな言葉を背中で聞きながら、鈴の音を響かせ、ドアを開いた。
冷たい空気が火照った体に丁度良い。路地裏は光が少なく、星がよく見えた。青白く光る月に雲がかかり、その光を鈍くする。途端に闇が深くなり、降り積もった雪が浮き出てくるようで不気味だと感じた。
背中に温もりと重さを感じながら、その中を歩いていく。未だ起きる気配は無いので、今回も気づかれぬまま送れるだろう。


満足感を得られる時間は直ぐに過ぎる。
マンションの3階、ある部屋の前で立ち止まった。最初に酔っぱらっていた本人から聞いたAの家だ。
今日も今日とて鍵は開いていて、防犯意識が薄いと扉を開けた。廊下を通り、寝室へと進む。
名残惜しく思いながら、ベッドに寝かせる。そう普段と同じ行動をして、寝顔を覗きこんだ。

普段とは違う、気の緩んだ無防備な顔。これを見ていると時間を忘れてしまうのが悪い癖だった。

このまま居ると起こしてしまうと考えて、目を逸らす。
ベッドに散らばった髪が目についた。これぐらいは許されるだろうとその黒い髪を掬い上げ、口元に持っていく。
甘い香りが鼻をついた。


「……もし君が起きていたら、どんな反応をしたのだろうね」


目をふせ、寂しげにそう言ったのだった

10分前 江戸川乱歩→←伝えられない思い 太宰 治



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にゃご(プロフ) - 伏見柚希さん» 返信遅れて申し訳ありません!感想ありがとうございます!感想を書いていただけると本当にモチベーションが上がります……。これからも頑張りますので、更新は遅くなると思いますがこれからもよろしくお願いします。 (2018年4月10日 18時) (レス) id: 489959ffd3 (このIDを非表示/違反報告)
伏見柚希(プロフ) - 書いてくださってありがとうございます。読んでいて猫とたわむれる社長をまじかで見てみたい気持ちになりました。これからも頑張ってください。 (2018年4月8日 22時) (レス) id: 269e1b2b92 (このIDを非表示/違反報告)
にゃご(プロフ) - あかりさん» ありがとうございます!そう言って頂くと本当に頑張ろうと思えます……。だいぶ更新は遅いですが、これからもよろしくお願いします! (2018年4月7日 12時) (レス) id: 489959ffd3 (このIDを非表示/違反報告)
あかり(プロフ) - 書いて下さってありがとうございます。なんだか心が温かくなりました。国木田さんの笑顔見てみたいですね。国木田さん推しなんで、国木田さんが笑顔になったら、ドキドキして顔が赤くなりそうです。これからも頑張ってくださいね。 (2018年4月6日 5時) (レス) id: 860abbe074 (このIDを非表示/違反報告)
にゃご(プロフ) - 紅茶さん» そう言って頂くととても励みになります。これからも頑張ります! (2018年4月2日 23時) (レス) id: 489959ffd3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:にゃご | 作成日時:2017年6月30日 13時

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