淡紅舞う 3【煉獄杏寿郎】

121.人の手 ページ21

血の通わない青白い肌、

　月夜に光る白く鋭い牙、

　もう二度と動かないその身体は闇夜に吸い込まれていく。



「なぜだ…なぜ紅月呪縛が月明かりの下でしか使えないと

　分かったのだ…何人もの鬼狩りと対峙して来たが…

　知られることはなかった…」




「大切な仲間が教えてくれたのだ。

　その人の観察力、洞察力は

　鬼殺隊でもトップクラスだろう。」



　杏寿郎は消えゆく鬼の近くに腰を下ろした。



「しかし…直接的に話してはなかったではないか…」



「"建物の陰に隠れて"という彼女の言葉

　空の様子、雲の様子を確認した彼女の行動

　多くは語らなくとも、

　俺にはその二つだけで十分な情報だった。」




「フンッ…随分と…上手く連携が取れているのだな…」




　杏寿郎はチラリと私を見ると微笑み、

　優しい声色で鬼に伝えた。



「俺の一番信頼できる相棒だからな。」




「幸せな奴だな…


　俺を育てた…狼は…人間に…殺されたのだ。


　人は…必要としなくなれば…捨て…


　邪魔な存在は…消す…


　だから…人間は嫌いなのだ…


　フンッ…皮肉なことに自身の最期も人間の手とはな…」



　杏寿郎は自身の手を鬼の手にそっと重ねる。



「辛かったのだな。

　もっと早く君に出逢えていれば良かった。


　悲しみや憎しみの負の感情が

　何年も何十年も君の心を穿っていたのだろう。




　しかし、どうか忘れないでほしい。



　人を救い出すのもまた、



　人の手であることを…」




　淡く光るように狼鬼は消えた。

　跡形もなく。悲しいほどに何も残らず。


　
　負の感情に心が支配された時、

　自分だけではどうにもならなくなることもある。

　そばに誰かがいれば、

　あたたかい手を差し伸べてくれる人がいれば、

　彼の人生もまた違ったのかもしれない。



　


　鬼は哀しい生き物だ。


　人間が作り出してしまった悲しみや憎しみの塊だ。





　それでも人を傷つけることは許されない。




　憎しみは憎しみを生むだけだから。






　どうか少しでも安らかに…


　

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