淡紅舞う【煉獄杏寿郎】

17.太陽 ページ17

「槇寿郎様にとって

　瑠火さんは

　かけがえのない存在だったんだね。」



「うむ。父と母は仲が良かったからな。


　それほどまでに父にとって母の存在は大きかったのだろう。


　心が癒えるまでの時間は人それぞれだ。


　早い人もいれば、遅い人もいる。


　
　俺が鬼殺隊としてもっと頑張れば


　きっと父もやる気を取り戻してくれると思う！」





　そうだよね。


　恋人以上の結びつきだもの…



　でも、杏寿郎だって自分の母親を亡くしたわけだ。


　それに憧れていた父親が


　その様な状態になってしまったのだから


　さぞ辛かっただろう。


　下に弟がいると言っていた。


　幼かった杏寿郎少年は弟を励ましながら、


　一人で鍛錬を積んでいたのだろう。





「A…？」




　私の知る杏寿郎はいつも笑顔だ。



　底抜けに明るくて、



「どうして君が…」


　
　辛い顔なんて一切見せない。



「そんなに泣いたら身体の中の水分が無くなってしまうぞ？」



　今だってこんなに…



「どうして…？」



「ん？」



「どうして杏寿郎はそんなにいつも笑顔なの…？


　辛かったでしょう。


　苦しかったでしょう。


　本当は…


　本当は…泣き叫びた」




　私が言葉を紡ぐより前に



　強く



　けれど優しく



　身体を抱きしめられた。




「それ以上言わないでくれ…


　頼む…」




　耳元で聞こえたのは



　いつもより少しだけ弱い声だった。

　




　この時私は分かった気がしたんだ。




　
　彼は誰にも言わず



　
　深い哀しみを心に持ちながらも




　希望を失わずに




　前を向いて





　自分の信じる道を





　愛する家族のあたたかい未来を照らすために





　いつも笑顔でいることを。










　太陽の様に暗闇を照らす



　優しく、あたたかい笑顔で。

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