共有 ページ5
.
「A、毛布が丁度二枚あった、隊服は脱いでこれに包まろう」
「うん……」
非常に危険な状況に追い込まれた。多少の怪我を負いながらも終えた任務から帰るときに、これ以上ないだろうという程の豪雨に襲われ、駆け足で雨宿りをできる場所を探していると何十年と使われていないだろう空き家を見つけて身を休めていた。
囲炉裏はなんとか火をつけることができた。もし真上から雨漏りをしていたら確実に着火はしなかっただろう。
視界に影響を与えるほどの悪天候。そして鎹烏も産屋敷邸まで飛行することが不可能なこの状況。冷えた身体は囲炉裏の火を頼りに懸命に体温を上げようとしていた。
「──くしゅんっ」
隣で、薄い毛布に身を纏ったAの頬は蒼白い。俺より小さな身体は肩から震えを見せていた。
目の前の赤い炎は、今の俺たちにとってはとんでもやく逞しく頼りになるものだった。明るくて、太陽のようだった。それでも、俺たちの身体を隅々まで温めるには少し物足りないようにも感じた。寒い。寒いけれども、まだ我慢できる。自身よりもAの方が気がかりだ。
「──A」
非常事態だから。生命を維持するための、それだから。
「……なあに」
「こっちへ」
生気の抜けた声と両目が、具合の悪さを物語っている。
「……」
少し、躊躇っているような匂いがした。当たり前だ。恋仲でない男に……招かれているのだから。けどAなら俺の言葉の真意を汲み取るはず。それに、Aの怪我の具合の方が酷いのだ。一刻も早く体温を上げてやらないと……危険な状態になりかねない。
──ギシ、と古びた床が鳴った。湿った髪先から水滴をいくつか落として、Aが遠慮がちに膝を曲げたままで寄ってくる。
「……炭治郎」
「大丈夫……ほら、おいで」
温めあわなければ肺炎になり、凍死してしまうのだ。きっとAだって分かっているはず。怖がらせなんかしない、さあ、こっちにおいで。
胡座をかいた足の上にAが乗っかかる。
「……あったかい」
「ああ、暖かいな」
薄い背中を上下に撫でた。寝かせないように、時折声を掛けながら。
「(絶対に……二人で耐えるんだ)」
明日の朝には、きっと雨も止んで……帰れるはずだから。
.
72人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
琴音 - めちゃくちゃ、キュンキュンしました!ありがとうございました🙇 (2022年3月22日 17時) (レス) id: 65eb06c570 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:^^* | 作成日時:2020年1月8日 22時