優しい人 ページ16
.
「……ぅ」
「すまない、できるだけ揺れないように歩いてるんだが」
「ううん、全然大丈夫。……それより重くない?」
「まったく余裕だぞ!」
「よかったあ」
緩い勾配のついた坂のせいで身体の振動を抑えて歩くことは困難だった。
ある町に出没したという鬼。同じ場所で複数が人を喰らっていたのは珍しかったが型を使わずに倒すことができた。が、一般人を庇って負ってしまったAの腹部の傷が酷い。従来より鋭利な爪をもった鬼だった。隊服さえ引き裂いて皮膚に裂傷をもたらしたのだ。
木箱の肩紐が千切れてしまったから禰豆子を連れてこられなかった。でも今日だけは連れてこなくてよかった。腹に怪我をしている人は負ぶうことかできないから横抱きにしているが、この状態で箱を背負ってもし不意に鬼が現れたときに対処がしづらい。
「A、落ちると危ないから首に腕を回してくれないか?」
「へ、腕?」
「? ああ」
なにか変なことでも言ってしまっただろうか。だがそのやり場のなさそうな両腕は首に回してくれないと躓いたときが怖い。
「な、なんか恥ずかしい……」
顔を正面に逸らしながら渋々腕を回してくれたA。後から遠慮がちになぜか潤んだ両目が俺を確認してきて……その、凄く。
「──え!? た、炭治郎っ鼻血出てる!」
「すまない、不埒ですまないっ……」
心臓に悪い。顔が物凄く熱いんだがどうすればいいんだ。Aの困惑している匂いと入れ違いで熱をもった血液が鼻から垂れる。両手が塞がっているから拭えない。これもまたどうすればいいんだ。
「えっとえっと、ちり紙……あった、拭いてあげる炭治郎」
「ありがとう、助かる。でも本当にすまない」
「戦った後って気分が高まる人も多いらしいから、普通のことだと思うよ? だから気にしないで」
「あ、ああ……?」
紙の大人しい匂いと柔い肌触りが鼻を優しく撫でてくれる。その言葉はどう意味として捉えればいいんだ? そう悶々としながら歩を進めていると、仔猫の呻きみたいな絞られた声を耳が拾った。
「A?」
「ごめ……声、漏れちゃった」
俺の胸元に顔を埋めながら隠すようにする荒い呼吸。
まずい、傷が響くからって呑気に歩きすぎた。患部が炎症を起こして発熱してしまったかもしれない。
.
72人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
琴音 - めちゃくちゃ、キュンキュンしました!ありがとうございました🙇 (2022年3月22日 17時) (レス) id: 65eb06c570 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:^^* | 作成日時:2020年1月8日 22時