2話 ページ2
…私は彼の瞳と似たようなものを見たことがあった。
いつだったか、テレビで放送されたドキュメンタリー番組で、とある保健所に収容されていたわんちゃんの瞳。
その子は前の飼い主から毎日の様に酷い虐待を受けていて、半ば人間不信に陥っていた。
保健所の人がご飯をあげようと檻に入るのだけれど、そのわんちゃんは悲痛なほどに何度も吠えて、伸ばされた手に何度も咬みついていた。
でも、その足はぶるぶると震えていて…
その、わんちゃんの瞳とそっくりだったのだ。
現に、こちらを見上げ睨みつけるこの人は、それ以上何もしてこない。
脱力していた身体が強張り、今は自分の体を守る様に小さく丸まっている。
「…だ、大丈夫、ですから。
私は、貴方を攻撃しません。
貴方を助けたいんです…!」
ただそれだけ伝えると、その人はさらに眉間の皺を深くさせる。
「ッ、近寄るな…
それ以上近寄れば…お前らの忌み嫌うこの力で…お前の村の一族、全員纏めて呪い殺す…」
ギリィ、と強く奥歯を噛み締め、射殺さんばかりの剣幕でこちらを睨みつける。
次第に、その身体からぶわり、と黒い煙の様なものが立ち上り始めた。
煙はおどろおどろしい雰囲気で空気をかき混ぜ、少しずつ辺りを侵食していく。
空気がビリビリと張り詰め、脳内に警鐘が鳴り響く。
まずい、と思ったが、私の身体は金縛りにあったかのように全く言うことを聞かない。
何もできない。
声も出ない。
このまま私は何か良くないことに巻き込まれる…という強烈な予感に打ち震えた。
…ところだった。
ふっ、と突然その張り詰めた空気がすぐに緩んだ。
体の自由を取り戻し、慌ててゴミ捨て場の方へ目をやると、さっきまでこちらを睨みつけていたその人が、力無くそこに倒れていた。
…どうやら、気を失ってしまったらしい。
「は、…はぁ…」
とにかく、どうにかされずに済んだので、ほう、と胸を撫で下ろすも、いまだに目はその人に奪われたままだった。
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作者名:他人の空似 | 作成日時:2023年11月17日 23時