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第15夜 ページ16

いつまでも姐さんの貯金に頼っても居られないので仕事を始めることにした。



運よく、隣の茶屋に雇って貰えることになり、箔雨は寺子屋へ通えることになった。



最初は話をしない、愛想をまかない接客の仕方に違和感を覚えたが、それも一週間程度で慣れてきた。




箔雨の寺子屋へ入る準備も同時に進めて行き、遂に明日から、という前の夜に霧雨姐さんが話しを切り出してきた。




「紫雨、箔雨、話がある」




「どうしたの?」




いつになく真面目そうな顔をした姐さんの前に2人で座った。




「聡一郎さんが、一緒になろう。そう言ってくれた」




「えぇ!!おめでとう!!」




幸せな報告のはずなのに、何故か姐さんの顔は晴れない。




「今まであたしはお前たちと一緒に生きてきた。これからもそれは変わらない。でもあたしが嫁に行ってしまう。それがどういうことかわかる?」




姐さんのキリっと通った眉は歪んでしまっている。





「元の名で生きていかなくちゃいけない。あたしは今までの人生の殆ど霧雨として生きてきた。あんただちだって同じ。その名を捨てるのがどういうことかわかる?」





名を捨てる。それはあたしたちの今までに終止符を打つと言うこと。





つまり、今まで血の繋がらないあたしたちを繋いできた“雨”を捨てること。今まで頑なにお互いをこの名で名乗って来たのは、死んだ姉、妹女郎との繋がりを切りたくなかった。それもある。





「…あたしは、それで良いよ。姐さんに幸せになってほしい。名前のつながりが無くなっても、あたしたちの記憶が消えるわけじゃない」





「あたしも、絶対忘れない。良くしてくれた姐さん達のこと」





「ただね、ただ…。名前を捨てるのはもう少し待って。捨てる前に道中をしよう。姐さんの結婚式と言う名の道中を」





立派に生きてきた姐さんの最期の生き様。





これがあたしたちの“終幕”だ。

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作者名: | 作成日時:2018年7月28日 16時

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