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episode39 ページ40

「みさき…って誰ですか?」


訝しげに、隣の沢村を見返す。

沢村はきょとんとして、何も言えなくなった。

少し混乱してしまう。


「ああ…そうだったわね」


が、すぐにAの記憶喪失を思い出し、平静となった。


「あなたの名前よ。」

「私の?」


訝しげに尋ねるAに、優しく微笑んだ。


「あなたは、自分の記憶がないでしょう」

「でも、私、自分の名前は知ってます」


首を横に振り、Aは沢村を見つめた。

自分が記憶をなくしていることは知っている。

けれど、みさきというAは知らなかった。


「私は、Aです。みさきは知らない」

「……あら」


沢村は、自分の口に手を当てて考え込む。

Aが、かつて忍田との尋問で、その名を口にしていたことを、ハッと思い出した。


「私、こっちではみさきさんになってるんですね」


ぼんやりと、Aはつぶやいた。


「でも私、本当に知らない」

「ええ。そうね、A」


沢村は先ほどより混乱していた。

同時に、安心もした。

この少女がハヤミサキでないというのなら、嵐山達に引き渡さなかった判断は正しかった。

それは救いだ。


しかし、なら少女は何者だ?


安心もつかの間、沢村の心は不安に覆われる。

また、少女の正体を捜さなければならない。


「……沢村さん」


不意にAが口を開き、沢村は我に返る。


「ごめんなさい」


隣を見ると、申し訳なさそうにうつむく少女がいた。


「……大丈夫よ」


条件反射のように、沢村の心に優しい感情が満ちていく。


「何も心配しないで。大丈夫」


そう言い、沢村はガス台に戻った。


「そろそろお湯が沸くわ。とりあえず、お白湯でも飲みましょ」


精一杯の笑顔を作り、Aを安心させようとした。

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夜桜 暁 - 大好きです。『ふぁっきんないすでぃ(・Д ・)』も『毒虫の宴』や『近界民少女は猿嫌い』等の他の作品も。貴方の世界観も。ヴィザ翁を中心にワートリのキャラも。 (2017年11月2日 0時) (レス) id: c5e0ba92a8 (このIDを非表示/違反報告)
璃唀 - あ、何これスゲェ。神作品だ。ハマった(・・) (2015年7月26日 15時) (レス) id: 05e80da987 (このIDを非表示/違反報告)
田中(プロフ) - アクアさん» 新興宗教のひとつですよ〜。信じる者、祈る者は救われる方面のです。 (2015年6月30日 16時) (レス) id: b09e69be34 (このIDを非表示/違反報告)
アクア - 来馬さんは、何の宗教にはまってるんですか? (2015年6月30日 7時) (レス) id: 685eeea938 (このIDを非表示/違反報告)
ムカデ(プロフ) - ストーリーもさる事ながら、話の構成も上手くて憧れますねー(*^_^*)奈良坂さん好きなので是非、頑張ってください! (2015年6月20日 11時) (レス) id: dd1f02b9c4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:田中 | 作者ホームページ:p://  
作成日時:2015年3月11日 2時

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