【ワールドトリガー】ふぁっきんないすでぃ(・Д・)

episode２９ ページ30

嫌なものを見た。

廊下を歩きながら、沢村は思った。

少女の服を替えていたときに見えた、傷跡。

下腹部から、陰部にかけての深い古傷。

同じ女として、他のどの傷跡よりも感情を揺さぶられた。

背中に押されていた焼き印よりも。

肩に刻まれていた、象徴的な傷跡よりも。

脇腹一面の、火傷の痕よりも。

古いあざや新しいあざでまだらになった皮膚よりも。

どれよりも、痛々しかった。

何のために？

どうしてあんな少女をあそこまで痛めつけた？

簡単だ。

よくあることだ。

少女は、“なぐさみもの”だった。

それだけのことだ。

おおよそ、男たちに酷い目に遭わされてきたんだろう。

殴られ、汚され、脅され、切られ、焼かれ、罵られ……。

少女が男を極端に恐れるのも、わかる気がする。

沢村は悲しくなった。

同時に、少女が記憶をなくしていることが、救いのように思える。

嵐山や小南、そして烏丸たちには申し訳がないが。

そんな記憶を憶えていようものなら、少女はどうなることか。

心を保つことができるのか。


「救わなきゃいけない……」


ふと、沢村は独り言をつぶやいた。

あの哀れな少女は、自分が救うべきだ。

そんな意志が、湧いてくる。


「まず本部長に言って…彼女の保護先を見つけて……」


これからの計画を、ぶつぶつと口に出して考えた。

何が何でも、少女には普通の女の子としての幸せを掴んでほしいと思っていた。

episode３０→←episode２８

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す