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三日前に手元へやってきた靴はすでに傷つきすぎていて、Aはさっさとそれを玄関で脱ぎ捨てると、ダストシュートに十二万の靴を放り込んだ。男の口づけがついた靴なんて、誰が取っておくものか。
高級マンションの中層階に位置する部屋はセキュリティの良さで選んだ。
仕事を自宅に持ち帰ることはトラブル回避のためにしないが、職業柄どこで何をされるかわからないことを、過去何度もモニターを挟んでやってきたための、予防線でもある。
しかもクソみたいに多い仕事は減ることなく、Aが帰宅することなんて一週間が七日あるうち、片手で足りる位だ。殆ど、寝に帰るか着替えを取りに来る程度。
高級マンションに住む身としては家賃が勿体無いと思う人間もいるだろうが、残念ながらAの口座には高額な家賃を毎月毎年引かれても、次から次へとお金が入ってくるのだから本人の金銭感覚も狂い始める。
合わせて資産運用なんかもやっているため、Aにとってお金で悩んだことなど学生の頃しかない。あの頃は死にたくなるほどお金がなくて、明日食べるものをどうにか確保するので精一杯だったのに。
でも、今よりあの死にたくなる日々の方が自分の目は生きていた。心は死にたくても、生きなければならないという謎の影に追いやられて、明日を懸命に紬いだ頃が懐かしい。
今なんてどうだ。
仕事に忙殺され、お金なんて降って沸くほどある。好きな人も愛する人もいないまま、知らぬ男の目を惹くことに精を出し仕事のことを考える。
貢がれる靴やアクセサリーは、機敏な動きによってすぐに駄目になりすぐ捨て、慈悲もなく彼らがダストシュートにさよならしていく姿を背中で手を振るだけ。
でもそれで……男の望む靴を履いて。この国の治安と安寧が守られていくのならいいことじゃないのかしら。
男の望む靴で庁内を走り回り、仕事に追われ、その代わりに様々な指揮許可をもらう。部下たちが動きやすいように、現場で困らないように。
相手の男も興奮剤を手に入れ、Aも仕事に打ち込める。安寧秩序は保証され、この国の治安がより良いものとなる。それでいいんじゃないの。
Aは裸足で冷たいフローリングをペタペタ歩いた。
カバンを放り投げ、バレッタでくくっていた髪をほどき、溜息と一緒にソファに身を投げる。
スプリングの効いた、リクライニングを倒せばベッドにもなるソファの中で、Aは脱力した。
あぁ、生きた屍だ。
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ぱーぷる姫(プロフ) - すみません、下のコメントで気が付きました。気づくと鳥肌です！また1から読み直します！ (2022年8月25日 0時) (
レス) id: be661beda4 (このIDを非表示/違反報告)
もちもち - 最高でした。言葉選びとかセンスがツボに刺さりまくりました。赤井と糸川で「赤い糸」になるのも気づいた時に鳥肌止まりませんでした。とにかく最高でした。 (2021年5月5日 1時) (レス) id: b3862cde2f (このIDを非表示/違反報告)
舞(プロフ) - 続編お願いします(T_T) (2020年8月8日 13時) (レス) id: e826140184 (このIDを非表示/違反報告)
vm - とても、すてきな言葉のセンスから見える世界観がとっても、大好きです！なかなか赤井落ちはないので、ありがとうございました！ (2020年5月1日 0時) (レス) id: d0a5fbaba4 (このIDを非表示/違反報告)
syubyi - いい、、すごく良かったです、、、続きを、、後日談的な続きを、、 (2020年4月11日 14時) (レス) id: 4a176e1186 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：◎たなは◎
| 作成日時：2017年4月4日 23時
